東京五輪で特設コートを満員にしたい! ビーチバレー界が取り組む組織改革
ブラジルでビーチバレーが人気になったわけ
ブラジルでも最初からビーチバレーが人気だったわけではない(写真はリオ大会) 【写真:ロイター/アフロ】
「ブラジルでビーチバレーは人気がある。でも単純に『ブラジルだから観客が入るんでしょ』と思うのは大きな間違いだとエマヌエル・レゴは話していました。ブラジルだって最初は全然人が入らなかったそうです。
でも選手が『自分が商品としてメディアにどう映るか』を考えるようになり、協会と大会運営が価値を高めるために動いた結果、メジャーな競技に成長した。競技者と協会とマーケティング会社、3者が共通して『自分たちが商品であること』を理解しなければいけないと言われました。そのどこが欠けてもダメだと」
リオ五輪の観客動員には、そういった背景や歴史があることを知った。
浅尾個人の人気を、ビーチバレーボール競技の商品価値へとつなげられなかった原因はいくつかある。予算組みや運営費の捻出などを得意とするビジネスパーソンが協会内にいなかったこと。そして、その道のプロに依頼する発想が持てなかったことなどだ。だからこそ今年の春から、商品力を高めるため必要な人材を外部から呼ぶことを決定した。そこにビーチバレーボール事業部の覚悟と本気が見える。船山は続ける。
「認知、商品力が上がればブラジルのようになれるはずだと考えています。認知されて、人が集まって、スポンサーが集まれば競技者は安心して競技に打ち込める。その競技を生業(なりわい)として生活できるようになって、ようやくその競技のプロを目指す人が出てくるのだと思います」
目の前の目標は20年に1万2000人の観客を集めることだが、何より選手が競技に専念できる環境を作るために、まずはスタート地点を整備している段階だといえる。
外国人コーチの登用で競技面でも強化
会見に出席したイザベル氏(右)。競技の強化のため、外国人コーチの登用に踏み切った 【JVA BEACHVOLLEBALL】
1996年のアトランタ大会で初めて夏季五輪の正式種目として採用されて以来、女子はアトランタで高橋有紀子・藤田幸子組が5位、シドニーで高橋有紀子・佐伯美香組が4位に入賞した。しかし、それ以降は2大会連続で出場権を逃し、前回のリオ大会は男女共に出場権を獲得できなかった。
強化の第一歩として18年6月、JVAが強化費を捻出してブラジル人のテクニカルディレクター、マリア・イザベル・バホーゾ・サルガド氏と契約を結んだ。日本のビーチバレーボール男子での外国人コーチの登用は、今回が初めてとなる。
ブラジル人コーチの招へいや強化指定選手の米国合宿、ブラジル合宿などを推進したビーチバレーボール事業本部の小田勝美副部長は語る。
「今までJVAにはジュニアを含めた3名のコーチがいて、すべての強化指定選手を彼らが指導していました。しかし、それだけでは人数が足りず、限界があるという声が以前からあがっていました。男子は個人でコーチと契約をしたり、それぞれの団体や選手に任せきりで、そもそもJVAに強化システムがありませんでした。
強化を図るには、やはりビーチバレーボールもオールジャパンで一致団結しないといけない。組織的にしっかりとした強化の体制を作ろうという目標を掲げて進めてきまして、今回のコーチとの契約に至りました」
成果が現れた石島・高橋組
ワールドツアーで優勝を果たした石島(右)・高橋組(写真は5月の東京大会) 【写真:坂本清】
石島は言う。
「まだまだコーチの要求に応えられていないけれど、少しずつ、試合でのプレーに結びついていると思いますね。イザベルコーチは基本的な動作など、ひとつひとつ、丁寧に指導してくれるんですが、ビーチに転向してから今まで、そこまで突き詰めて細かく指摘されたことはありませんでした」
高橋も語る。
「(イザベルコーチは)ブラジルというビーチバレーボール強豪国で成功しているペアを指導してきたコーチ。一流選手のよいところを見てきている人ですから、それを今、僕らに還元してくれているという実感はあります」
今後は川崎マリエンを拠点として、ツアー以外の時間で強化指定選手を指導する予定だと言う。
「強化指定選手が切磋琢磨(せっさたくま)して開催者枠、そしてコンチネンタル枠の出場権を取り、男女4チームで東京五輪に出場するのが目標です」(小田副部長)
特設会場はロンドン大会やリオ大会の会場のように、満員の観客による熱狂の渦が巻き起こるのか。そして、その観客の目の前で、日本代表は活躍できるのか。東京五輪の開幕は2年後に迫っている。