大谷翔平、DL入り判断の裏側 治療法の判断が短時間だった理由

丹羽政善

張りの訴えから翌日にPRP注射

徐々に右ひじが下がっていたという30日のタイガース戦。162キロを超えるストレートを計測した大谷だが、右ひじへの負担が大きかった 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 さて、大谷は――?

 そうした田中やダルビッシュのときと比べると、短時間でいろんなことが決着している。

 張りを覚えたのが6日の試合後。ビリー・エプラーGMに伝えると、翌7日には、MRI検査を行い、損傷が確認されると、同じ日にPRP注射による治療を行った。よって8日にエンゼルスから状況が公表されたときには、すべてが終わっていたのである。

 この一連の経緯というのは実は、エプラーGMが8日の電話会見で、「治療でコントロールが可能」と楽観的に話したことの裏付けにもなりうる。

 というのも、もしも深刻な状況ならば、PRP注射をするにしても、判断に時間を要する。セカンドオピニオンを求めるべく、違う医師による診察を選択したかもしれない。

 ただ今回に関しては、そういう経過が一切、省略されていた。

 エプラーGMは、「チームドクターが早い段階で、PRPを勧めた」と明かしたが、部分断裂は否定出来ないものの、慎重な判断が必要というほどのレベルではなかったということか。

 かといって、安心できるわけではない。

 昨年10月にPRP注射を受けていたことを、12月の契約後に米ヤフー・スポーツが報じたが、あのときの程度はグレード1。今回はグレード2。悪化したことは否定できない。

問題は復帰してからの恐怖心

 では実際、どの程度断裂しているのか。グレード2の解釈は広いので絞り込むことは難しいが、次に痛めれば、おそらく手術を避けられない。PRP注射による再生治療を受けたとしても、靭帯そのものが再生するわけではなく、断裂が切り傷のように自然治癒するわけでもないのである。

 今後、一つの焦点となるのは、復帰の目処とされる8月の動きか。

 球団は、3週間後に再検査を行い、その後のリハビリ予定を考えるとしているが、問題は、復帰してからだろう。

 まずは、恐怖心を取り除けるかどうか。少しでも不安があれば、ひじをかばうような投げ方となる。そうなれば今度は、肩を痛める可能性もある。実際、そういう経緯をたどる選手は少なくない。また、腕を振ったときに、靭帯が耐えられるかどうか。リハビリ登板ではそこまで無理をすることはない。しかし、復帰すれば無意識のうちに力が入る。そこでひじがどう反応するのか。

 30日のタイガース戦では、徐々にひじが下がるという傾向が出ていた。その中で最後に101.1マイル(162.7キロ)という今季最速の球を投げた。あの球はリリースポイントが下がり、さらに三塁側にずれていたため、右ひじへの負荷は相当なもの。あれを続ければ、靭帯の悪化は避けられないのかもしれない。

ケガを防ぐことの難しさ

 それにしても今回、改めてケガを防ぐことの難しさを痛感させられた。エンゼルスもあれだけ気をつけていたのである。

 9日、大谷の離脱を受けて取材に応じたマイク・トラウトは、「野球選手にとって、健康でいることは簡単ではない」と話したが、自身も昨年、5月終わりから7月半ばまで、左の親指を痛めて戦列を離れている。

 やはり、イチローのような選手は特殊なのである。

 それでも今回のケガを前向きに捉えるなら、大谷には時間が出来た。リハビリが中心だが、考える時間も増える。有効に使えるかどうか。プラスに変えられるかは、大谷次第である。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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