全仏テニス4強の穂積・二宮組 第1シードを破った“劣勢からの打開策”
第1シードペアと対峙した準々決勝
穂積(右)、二宮組は女子ダブルス準々決勝で第1シードを破り、ベスト4進出を決めた 【写真は共同】
大会第1シードのティメア・バボシュ(ハンガリー)、クリスティナ・ムラデノビッチ(フランス)から、日本の2人が手にした勝利を言い表すには、その言葉が最もふさわしいだろう。
それは単に、7−6、6−3というスコアのみを指している訳ではない。全仏オープンの準々決勝という大舞台だからということでもない。穂積絵莉と二宮真琴(ともに橋本総業)の二人が、おのおのがこれまで踏破してきた足跡と経験を重ね、自分たちの武器と可能性を信じ、劣勢のなかで打開策を見いだしたという意味において、これ以上ない“快心の勝利”であった。
穂積、二宮組の強みは、欧米勢にも打ち負けない穂積のストローク力と、圧倒的な反応とボレー技術を生かした二宮の決定力にある。だがそのような日本ペアの情報は、地元での優勝を狙うムラデノビッチとバボシュの頭にも、当然のように入っていただろう。本来なら強打からの速い展開を得意とする第1シードが、ロブを多用し明らかに二宮をかわしてきた。後方で左右に振られ必死にボールを返す穂積の姿を見ながら、何かしなくてはと焦る二宮がボールに飛び込み、ボレーをネットに掛ける場面も見受けられる。必死に追いすがるも全体としては劣勢の流れのまま、試合は第1セット終盤の局面へと向かっていった。
仕掛けられた“二宮封じ”への対抗策
ムラデノビッチと後衛で打ち合う穂積が、相手の球威に押され逃げるように上げたロブは浅くなり、相手前衛のバボシュにたたかれる。このとき穂積は、「ムラデノビッチとクロスで打ち合っていては、真琴を生かすことができない」と悟る。そこで二人はコート上で話し合い、素早く策を再構築した。
穂積のサーブ時、前衛の二宮はクロスラリーを切る位置に構え、ストレートの打ち合いへと誘導する。そうすることで、相手が得意とする角度をつけたストロークを封じるとともに、コースを限定し二宮を飛び込みやすくさせる狙いだ。
果たしてその戦術は、この重要な局面で心地良いまでにハマった。二宮の3連続ボレーで危機を脱した日本ペアは、得意のポイントパターンを取り戻したことで勢いを得る。対する第1シードペアは、自分たちのプレーを抑えてまで実施した“二宮封じ”を崩され、どこか落ち着きを失った。試合序盤にはあれほど多用したロブも、失念したかのように打たなくなる。そうなれば、二宮が前衛で決定的な仕事をし、二宮に動きが出ることで、穂積の狙いにも大胆さが生まれる。第1セットをタイブレークの末に奪った時、日本の二人は自分たちに流れが来たことを、そして相手に精神的にもダメージを与えた手応えを共有していた。
個々では負けても「ダブルスとしては自分たちの方が上」
全豪オープン優勝のペアに勝ったことで頂点に立つ可能性も現実味を帯びてきた 【写真は共同】
勝利を懸けたサービスゲームのマッチポイントでは、「打つと決めていた」穂積のストレートへの強打が、相手コートのライン際へと刺さる。手のひらに残る感触に勝利への確信を深めた穂積は、線審の両手がラインの内側をスッと指し示すのを見届けてから、両手を天に突き上げた。
今回の快勝が二人にもたらしたのは、ベスト4の地位や勝利の喜びだけではない。
「個々の力では相手に負けている部分が多いと思うけれど、ダブルスとしては自分たちの方がいろいろなパターンがある。第1シードより上だと思った」
物静かながら意志の強さを感じさせる口調で二宮が言えば、「一番近いグランドスラム(今年1月の全豪オープン)で優勝しているペアに勝ったことで、自分たちにも優勝の可能性はあると思えました」と、自らを説くように穂積が続ける。
勝てない相手はいないと思う――かつて口にしたその予感を確信に変え、決勝の舞台を目指す。
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