福西が説くW杯での“割り切り”の重要性  「初戦を落とした時こそ真価が問われる」

飯尾篤史

「もっとツネをサポートできればよかった」

当時、キャプテンだった宮本の話をすると、福西はうなずきながらある後悔を口にした 【スポーツナビ】

 自由度の高いジーコのサッカーは、選手にとって大変だったのではないかとも思えるが、その意見を福西は否定する。

「トルシエのときは、まず言われたことをやって、それを自分たちで微修正する感じ。ジーコの場合は、監督が思い描いているイメージがあって、それを自分たちで作り上げていく感覚があったから、すごく楽しかった。ただ、まとまり切らないこともあったし、状況に応じて臨機応変にやるレベルにまで達しなかった、ということです」

 ジーコジャパンについて、キャプテンを務めた宮本恒靖がかつて、こんなことを話していた。

「当時はいろいろな選手に声をかけながら、その選手の良さを生かしたり、気持ち良くプレーできる環境をつくったりすることが大事だと思っていたんです。でも、そればかりでなく、強いひと言を発する。この瞬間は、俺の言葉を信じて付いてきてほしい――。そんな訴え方も必要だったと今では思います。ジーコジャパンに関しては、その反省がすごくあります」

 その話を告げると、福西はうなずいた。

「ツネの言うことは分かります。確かに、まとまり切らないときは、誰かがひとつの方向にまとめなきゃいけない。ツネはキャプテンだったから、そう感じているんだと思うけれど、僕自身、もっとツネをサポートできればよかった。当時はしていたつもりだったし、メンバーはみんな個性が強かったから、難しいことなんだけど。今思えば、もっとまとまることができれば、良かったな」

ブラジルに4失点、幕を閉じたドイツ大会

グループリーグ第3戦でブラジルに4失点の大敗。ジーコジャパンのW杯は幕を閉じた 【写真:ロイター/アフロ】

 オーストラリアのパワープレーに、それまではなんとか耐えていた日本の守備網が後半39分、ついに決壊する。ロングスローのこぼれ球をティム・ケーヒルにたたき込まれると、後半44分にもケイヒル、アディショナルタイムにはアロイージにゴールを許し、1−3の逆転負けを喫した。

 先制し、終盤までリードを守りながら、まんまと相手の術中にハマってしまった。クロアチア、ブラジルとの対戦を控え、初戦でなんとしても勝ち点3を奪いたかっただけに、ダメージは計り知れないものがあった。

「オーストラリア戦後の練習は、お通夜のような雰囲気でしたね。次だ、次って言い合っても、切り替えることができなかった」

 続くクロアチア戦、勝ち点3が絶対に必要だったこの試合で、福西は勝負に出る。

「勝たなきゃいけなかったから、ボールをガンガン奪いにいったんです」

 ところが、そのプレーがバランスを崩しているとジーコに判断されたのか、ハーフタイムに稲本潤一との交代を告げられる。結果としてこの試合が、福西にとって日本代表のラストゲームとなった。

 クロアチアと0−0の引き分けに終わった日本は、辛うじて第3戦にグループステージ突破の望みをつなげた。6月22日、ドルトムントで行われたブラジル戦は、玉田のゴールで先制したが、4ゴールをたたき込まれ、ジーコジャパンのW杯は幕を閉じた。

「チームのポテンシャルは高かったし、期待もすごくされていたから、あの結果はつらかったというか、ショックでしたね。もっとできたんじゃないかっていうことも考えたし、やっぱりW杯は結果がすべてだなっていうことも痛感しました。どんなに良い選手がそろっていても、それまでの過程が良くても、最後に負けたら意味がないし、チームが壊れてしまう。すごく悲しかったですね」

「盛り上げ役」としても期待したい槙野の存在

ムードメーカーの重要性を説く福西は「今の日本だったら槙野に期待したい」とコメント 【写真:ロイター/アフロ】

 ジーコジャパンの命運が初戦のオーストラリア戦にあったのは間違いない。オーストラリアに勝っていれば、結果はまるで違ったものになっていただろう。だが、福西は、初戦を落としたときにこそ、チームの真価が問われると説く。

「もちろん、初戦がすべてと言っていいし、初戦で勝てば勢いに乗れる。でも、サッカーって、当然だけど、想定外のことが起きるわけです。ドイツ大会で言えば、異常気象もそうだし、オーストラリアがパワープレーを早めてきたこともそう。坪井が交代してしまったり、伸二の投入の意図が伝わり切らなかったりして、それで負けてしまうこともある。そのときに、いかに慌てず、落ち込まないでいられるか。良いときって、やっぱり良いんですよ。悪いとき、どうまとまれるか」

 初戦を落としても、2戦目、3戦目が控えているわけで、初戦で勝っても、2試合目で勝っても、同じ1勝。だから、黒星を気にせず、割り切れるかどうか。

「ただ、日本人特有なのかどうか分からないですけれど、チーム内で誰かがネガティブになると、そっちに引っ張られる傾向が強い。負のムードが伝染するんです。だからこそ、そういう雰囲気を断ち切るムードメーカーの存在が大事。今の日本代表だったら槙野(智章)なのかな。盛り上げ役として期待したいですね」

 ドイツ大会のときのように、前評判が高いわけでは決してない。しかも、開幕2か月前に監督を交代するという非常事態。チームを取り巻く状況は、10年の南アフリカ大会と似ていると言えるかもしれない。ロシア大会に挑む日本代表メンバーがすべきことは、ポジティブに、まとまること。それしかない。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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