2週間で調整、戦術徹底は間に合うか? 問われる早川コーチと西野監督の手腕

元川悦子

香川、岡崎、乾はベストに引き上げられるか

ガーナ戦で後半から出場した香川は攻撃チャンスを作っていたが、息切れした感が強かった 【写真:ロイター/アフロ】

 その反面、クラブで長期間試合に出ていなかった岡崎、香川、井手口はパフォーマンスが上がり切っていない印象を色濃く残した。岡崎は千葉合宿のほとんどを治療やリハビリに充てていたため、そこまでキレのある動きができないのも想定内かもしれない。だが、全体練習をフルで消化してきた香川は、ガーナ戦の後半開始から出場したが、10分間だけで息切れした感が強かった。最初はダイナミックさを前面に押し出し、攻撃チャンスも作っていたが、それが長続きしなかったのだ。

「コンディション自体は悪くなかったけれど、それを証明しなければいけない。コンディションがよくても結果が出なかったら勝てない」と本人はピッチに立つや否や、打ちにいった2本のシュートを決め切れなかったことを問題視している様子だった。

 しかしながら、やはり体がスムーズに動いてこそ、フィニッシュの精度も上がってくる。2月以降、90分ゲームを一度もしていない香川は好調時の状態に戻すべく、ゼーフェルト合宿で走力や運動量のアップ、試合感覚を研ぎ澄ませることに全力で取り組むべきだ。「個人的にもっともっと上げていく必要がある」という自覚を持っている点は、前向きに捉えていいだろう。

 ケガを抱えていた岡崎、乾の状態を引き上げることも、今後の重要なテーマになってくる。ガーナ戦の岡崎は30分余りの出場で1トップと武藤嘉紀との2トップを経験したが、シュートゼロに終わった。レスターでプレミアリーグを制覇した15〜16年あたりは前線で体を張って粘り強くボールを収めたり、前からすさまじい勢いでプレッシングにいく姿が光ったが、そういうプレーも影を潜めてしまった。西野監督は「岡崎や香川、井手口がプレーできたことを本当にうれしく思う」と努めてポジティブな感想を口にしていたが、残り2週間余りでベストに引き上げられるかは未知数。ガーナ戦でプレーしなかった乾は岡崎以上に厳しい部分があるのは確かだ。

 とはいえ、8年前もこの時期にケガを抱え、壮行試合の韓国戦を回避しながら、スイス合宿で一気にパフォーマンスを上げた松井大輔のような例もある。「初戦のカメルーン戦だけを見据えて高地で徹底的に追い込んだ後、低地に下りたら体が異常なほど軽くて驚いた」と松井は話したことがあるが、今回のゼーフェルトも1180メートルとやや標高が高め。そこで負荷の高いトレーニングをすれば、3人ともコンディションを引き上げられる可能性は皆無ではない。

 逆にここまで順調でも、本番が近づくにつれてプレッシャーや精神的ストレスなどが重なって調子を落としていく選手も過去にいた。南アフリカ大会では岡崎や中村俊輔、14年ブラジル大会では香川がそうだった。そうした事態を回避すべく、個人個人をどうマネジメントしていくのか。そこは早川コーチと西野監督の手腕に託されるところだ。

重要なのはコンディション調整だけではない

直前合宿地オーストリアへと向かった日本代表。コンディション調整と戦術の落とし込みをどこまで進められるか 【写真は共同】

 ゼーフェルト合宿の西野ジャパンに課せられるのは、もちろんコンディション調整だけではない。ガーナ戦でうまく機能しなかった3−4−3を続けていくのか、4バックを軸に戻すのかといった戦術的な見極め、落とし込みの作業を急ピッチで進めていかなければならないのだ。

 ガーナ戦で左ウイングバックに入って攻守両面で異彩を放った長友佑都も「3バックを続けるなら、僕が上がった後の対応をもっとしっかりやらないといけない。槙野が入った左DFの1枚が絶対に相手についてファウルをしてでも止めるのか、ボランチがズレるのかという割り切りをしていかないと。オートマティックにできるようにならないと本大会では難しい。ゼーフェルトではそこを徹底してやりたいし、練習の時間だけじゃなくて、練習以外の時間も相当話すことになると思います」と意思疎通の重要性をあらためて強調していた。

 彼の言うように、限られた時間でどこまで戦術を徹底させ、コロンビア、セネガル、ポーランド対策を詰めていけるかが、ゼーフェルト合宿の最重要テーマになってくる。西野監督の中で、具体的なイメージが描き切れていない今、選手たちが一体感を持ち、率先して取り組んでいかなければ、チームは前に進まない。

 8年前もスイスでの選手ミーティングがチームの流れを大きく変える結果になった。今回はより一層、こうした試みが必要かもしれない。川島、長谷部、本田、長友、岡崎に、サポートメンバーだった香川、酒井高徳と8年前を実際に経験している選手が多いことは今回のチームの大きなアドバンテージ。「年齢層が高い」という批判も少なくないが、それだけ経験値があるということ。それを生かすことが肝要だ。

 ゼーフェルトはここから1週間、荒れた天候が続くという。日本代表もフィジカル、戦術の両面で不安定な状況に直面しているが、現地の天候のように1週間後には視界良好になるよう、コーチングスタッフと選手たちには最大限の努力をしてもらいたい。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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