エイバルでの3年間は「人生最高」の日々 それでも乾貴士が移籍を決断した理由

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「このレベルじゃ俺は無理なんかな」と思った1年目

最高のチームメートに恵まれ、充実の3年間を過ごした 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

――子どもの頃から憧れたスペインで戦う場を与えてくれたのがエイバルでした。3年間を振り返ると、どんな日々でしたか?

 やっぱり常に楽しかったです。もちろん苦しいこともありましたけど、基本的には常に楽しくて、今までで一番いい3年間を過ごせたと思います。

――3年前の夏に入団会見がありました。あの時、今の成長と活躍は想像できていましたか?

 理想としては思い描いていましたけれど、ここまで試合に出られるとは1年目の出来から考えると想像できなかったです。ここまで監督にも信頼してもらって、チームメートにもすごく良くしてもらって、信頼してもらえましたし、ここまでなるとは思えなかった。自分自身も正直びっくりしています。

――3年間顔を突き合わせたメンディリバル監督は、乾選手にとってどういう存在ですか?

 エイバルのほとんどの選手がそうだと思いますけど、本当にお父さんみたいな存在。だからこそなんでも相談できますし、いろいろなことを隠さずになんでも言える。監督の方からもなんでも言ってきてくれますし、もちろん悪かったら悪いと言う人なので、それが良いところだと思います。監督との距離がこれだけ近いのはなかなかないので、自分にとっては本当にお父さん的な存在ですね。

――ドイツ時代は家族との生活でしたが、エイバルでは単身赴任でした。3年間で帰りたい気持ちになったことはありますか?

 ありましたよ。1年目とか、自分のプレーがふがいなかった時とかは、つらい時期もありました。「ああやっぱり、このレベルじゃ俺は無理なんかな」と思った時もありましたし……。

 でも、その後の練習は楽しくて、ここで成長したいなと思いました。もちろん家族も遠くで応援してくれている、頑張ってくれているという思いも自分の中にあったので、自分も負けずに頑張ろうと思いましたね。

――そして、この夏の移籍を決断しました。どんな気持ちですか?

 もちろん不安もありますし、寂しい思いもあります。でも楽しみな気持ちもやっぱりある。サッカースタイルが全然違っても、自分のサッカーに対する知識やスタイルが増えるんじゃないかなと思っています。それをしっかり勉強したいですし、今は楽しみな気持ちも、不安な気持ちももちろんあります。

最高の環境を捨ててまで“挑戦”する意味

日本代表の一員としてW杯ロシア大会出場を目指す 【Getty Images】

――日本代表について、現時点でのワールドカップ(W杯)への思いを聞かせてください。

 もし選ばれたら、日本のサポーターのために頑張らなければいけないとは思っています。4年前の前回は、選ばれないだろうと分かっていたので、選ばれるかどうかという立場にいるのは人生で初めて。でも基本的に、自分の気持ちとしてはそんなに変わらないですね。もしかすると発表当日とかになればドキドキするかもしれないですけど、でも今は普通に良い状態ですし、コンディションも上がってきているので、良い感じできていると思っています。

 周りが騒ぐのは仕方ないですけど、選手がそれに一喜一憂して流されるのは良くないことだと思うので、普通にやっていくことが一番大事じゃないかと思います。

――サッカーが楽しい気持ちは、自分が子どもの頃と変わった部分がありますか?

 う〜ん、小学校低学年の時の無邪気さがもっと欲しいかな。低学年の時なんて何も考えずに楽しくサッカーをやっていた。でも、あの無邪気さの中に究極の楽しさがあるので、それを自分の中ではもっと求めていきたい。多分ネイマールとか(リオネル・)メッシはそれに近いところがあるので、自分もそれに近づければいいかなと思っています。

――これからやってくる移籍やW杯は、乾選手にとって「サッカー人生最大の挑戦」になるのでしょうか?

 本当にその通りかもしれないですね。実際、自分の大好きなスペインに来て、そこでやりたくて追い求めてきて、その中で最高のチームに出会って。でも、その最高の環境を捨ててまで“挑戦”することは、自分にとってこれまでにない挑戦かもしれないです。

――もっとサッカーがうまくなりたい?

 はい、うまくなりたい(笑)。そうじゃないと楽しくないと思うので、単純にサッカーがもっとうまくなって楽しくやりたい。やっぱりうまい選手を見ていると「うわ、楽しそうやな〜」って思えるんで、そういう選手になっていきたいですね。

「もっとうまくなって楽しくやりたい」という思いは決してぶれない 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 乾は居心地の良かったエイバルから、あえて不安と期待を伴う移籍を決断した。人生を懸けた挑戦が成功するかどうか。それは本人にも分からない。

 ただ、その理由はシンプルだ。より楽しくプレーするために。6月2日に30歳を迎え、さらなる高みを目指す乾は、「まだまだうまくなりたい。いろいろな知識を取り入れたい」とサッカーに向き合い、前進を続けている。

 そして6月に待ち受けるのは、その最大の挑戦のひとつと言えるW杯ロシア大会。5月31日のメンバー発表へ向けて乾は、右太もものケガのリハビリとトレーニングに励みながら、「焦らずに治したい」と世界大会デビューの時を待ちわびている。

WOWOW番組情報(PR)

『ノンフィクションW 乾貴士 サッカー人生最大の挑戦 〜29歳 さらなる高みへ〜』
スペインで最も活躍している日本人、乾貴士。2017−18シーズンもさらなる成長を見せ、順風満帆に見える。だが29歳の今、サッカー人生で最も重要な局面を迎えている。
【放送日】6/3(日)午後4:00〜[WOWOWプライム]
出演:乾貴士(SDエイバル)
ナレーション:竹内結子

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