全日本女子が今季取り組んできた課題 バックアタックはなぜ使えなかったのか?

田中夕子

強豪相手にこそ、バックアタックは必要

強豪国との対戦に向け、バックアタックは引き続き取り組むべき課題だ 【写真:坂本清】

 同様に、今季の合宿開始当初は中田監督も「Bパスからでも積極的にバックアタックを使う」と掲げ、セッターの冨永こよみも「ネットから離れたアタックライン付近のBパスになっても、クイックを使う感覚で近い位置からバックアタックを使いたい」と話していたが、練習ではできても試合になるとなかなか発揮できない。

 勝利した日本ラウンド2戦目のベルギー戦はディフェンス面を重視し、セッター対角に新鍋理沙を入れ、古賀、内瀬戸真実が対角に入ったことでレセプション(サーブレシーブ)は安定し、新鍋、内瀬戸が前衛時はスピードを生かした攻撃で相手のブロックを1枚から1枚半にし、得点を重ねた。それも1つのオプションとしては有効ではあるが、組織的なブロックを基軸とする米国やオランダのようなチームに対して同様に戦えるかと言えばそうではない。

 事実として、米国代表のカーチ・キライ監督も「後ろからも前からも攻撃参加する選手がいれば、相手はやりたいことをやるのが難しくなる。(今の世界の潮流として)バックアタックを打たない選手を起用するのは非常に難しい」と話している。簡単に自チームのペースに持ち込みやすい相手ではなく、強豪国を相手にどれだけ武器を出せるか。そのカギになるのがバックアタックであり、引き続き取り組むべき課題であるのは明確だ。

 古賀が言う。
「速い攻撃の効果は確かにありますが、フロントだけで攻撃していたら相手もブロックにつきやすくなる。理想としてはセッターだけじゃなく、リベロが二段(トス)を上げる時も同じテンポでバックアタックが打てるようになりたいし、常に強豪国をイメージしてやり続けないと世界とは戦えない。もっともっと積極的に入らないとダメだと思うし、コミュニケーションを取り合って、理想のイメージに近づけていかなければいけないと思います」

黒後「今はチャレンジをする時」

今季がシニア代表での本格スタートとなった黒後愛。課題に対して前向きなコメントを残した 【写真:坂本清】

 日本ラウンドの3戦では多くの課題が露呈した。だが前向きにとらえるならば、それだけ伸びしろがある、と取ることもできる。

 それはもちろんチームだけでなく、選手個々にとっても同様で、今季がシニア代表での本格スタートとなった黒後愛もまさにそう。ブラジルで開催されたネーションズリーグ初戦のセルビア戦でスタメン起用されたものの、スパイク得点を挙げることができないまま途中交代。4試合ぶりにスタメン出場を果たしたオランダ戦は爪痕を残したものの、課題が多いことは誰よりも自分自身が理解している。

「自分は助走の幅もスイングも大きいんですけれど、もうちょっとコンパクトに。スピーディーに、でも自分のパワーは絶対に残していきたい。助走の一歩が大きいので、速いトスに対してはもうちょっと助走の距離自体を短くしたほうがいいのかな、とも考えるけれど、高さとパワーが出るような助走を自分の中で見つけていきたい。今はそういうチャレンジをする時だと思うので、同じチームに勉強になる人がたくさんいるのでいっぱい見て、いっぱい学んで成長できるようにもっと頑張らなければいけない、とあらためて感じました」

 逃げずにここから何をすべきか。突きつけられた課題を受け止め、チームとしても個々としても試行錯誤を繰り返しながら、何がベストなのかを探る。試合を重ね露呈した課題をいかに克服するか。その過程こそが今秋の世界選手権、さらには東京五輪へつながる糧となるはずだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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