能登の自然が育てたバスケ遺伝子 東京五輪を目指す赤穂さくら&ひまわり

小永吉陽子

両親、4姉弟、すべてバスケ選手

さくらが地元のミニバスチームに入団したのは小学校5年のとき。それでもぐんぐん成長していった 【小永吉陽子】

 赤穂姉妹が育ったのは、母の故郷でもある石川県七尾市。風光明媚(ふうこうめいび)な能登半島が遊び場だった。姉のさくらが地元のミニバスチームに入団したのは小学校5年のとき。それまではボール遊びこそしていたが、本格的にスタートしたのは小3の妹と同時期になった。ところが所属したチームの練習は週に2回、試合は年に5回程度しかない片田舎にあるのんびりとしたチーム。その一方で、身長はぐんぐん伸びていき、さくらは中学入学時には178センチ、ひまわりは172センチまで伸びた。

 それもそのはず。父である真(まこと)さんは元日本リーグの住友金属と松下電器に所属した196センチのビッグマンで1995年のユニバーシアード代表も経験している。母の久美子(旧姓・政浦)さんは172センチで3ポイントシュートを得意とし、インカレMVPを受賞している。ともに、日本体育大の同級生でキャプテンを務めていた名物カップルだったのだ。さくらが中学に進学するにあたり、「強いチームでやってみたい」との思いを抱いたと同時に、その血筋を周囲が放っておくわけがなかった。

ひまわりには双子の兄・雷太がおり、ともに千葉の強豪校に進学している 【小永吉陽子】

 進学先は千葉の昭和学院中に決定。父の真さんが住友金属時代に千葉に住んでいた関係で、知り合いを通して紹介された名門校だ。「ちょうど小6の時に昭和学院中が全国大会で優勝したので、ワクワクして入学しました」(さくら)というように、故郷を離れてもホームシックにかかることもなく、部活動に打ち込む毎日。2年後には妹のひまわりが「姉を見ていたら私も強いところでやってみたくなった」と同じ道をたどって昭和学院の門をたたく。

 赤穂ファミリーがすごいのは姉妹だけではない。ひまわりには双子の兄がいるが、兄・雷太(らいた)も197センチの大型選手。姉妹と同じく千葉の強豪、市立船橋高に進学し、3年次のウインターカップでは中心選手として活躍しベスト8入り。現在は青山学院大の2年生で、今年は日本学生選抜に選出された。そして4人姉弟の末っ子である3女・かんなは現在高2。こちらは石川に残り、県内の強豪である津幡高に進学し、昨年はウインターカップに出場している。

 家族全員がバスケ選手で全国大会に出場し、日の丸を狙える逸材。日本でこれほどまでのバスケファミリーはいないだろう。だからといって、赤穂家はスパルタ教育をしてきたわけではない。むしろその逆だった。

 母の久美子さんは子育て論をこう語る。「小学校から無理やりバスケをしろと強要はしませんでした。バスケがイヤになってほしくなかったんです」と話す久美子さんのプレー歴は大学まで。Wリーグでプレーできるレベルにありながらも「私は大学まででやり切りました。そこから先はバスケットをやる気にはなれなくて企業に就職したのです」という自身の経験から、子供たちを幼い頃からバスケ漬けにせず、のびのびと育ててきた。さらにこう続ける。

「遺伝的に子供の身長が高くなることは予想できたので、能登のお陽様をたっぷり浴びて丈夫な骨を作り、よく食べて、よく寝る子に育てたいと思っていました。いずれ、中学、高校、トップリーグに進めばいろいろな指導者に教わることになりますが、その指導者のバスケに対応することが伸びていくことになります。そのための丈夫な体を作ることが親としてできることでした」

 デンソーの小嶋裕二三ヘッドコーチも2人が1年目から戦力となった理由として「さくらは体が強くて、ひまわりは体力がある」ことを挙げている。そして小嶋ヘッドコーチは2人の将来を見据えて、ルーキー時代からどんなに苦しい場面でも起用し続けた。そうして今があるのだ。

 長女のさくらは明るく、次女のひまわりはクレバーな思考型。雷太は気の優しい長男。それぞれに個性があるが、「私が、俺が」とセルフィッシュなタイプではない。3人ともに素直さを残したまま、時折、目を見張るようなプレーをこなすのは、能登半島ですくすくと育った環境が影響しているのだろう。今後も十分な伸びしろが感じられる赤穂姉妹だ。

今は花を咲かせる準備段階

生まれた能登半島の太陽や新鮮な魚で丈夫に育った2人。さらなる活躍で大きな花を咲かせる 【スポーツナビ】

 今年の3月末に終わったWリーグでデンソーは準優勝と飛躍した。日本代表の主力である高田真希(183センチ、28歳)とともに、180センチ台のフロントラインがそろったことで、デンソーは今後ますます脅威になるだろう。そして「次こそはJX−ENEOSを倒して優勝」と目標を掲げるのと同時に「東京五輪に出たい」と2人は声を大にする。

「姉妹でチームメートだけど、五輪に関しては2人そろってというより、自分が出たい。東京五輪の頃、私は24歳なので成長するにはちょうどいい時期」と姉が言えば、「私もお姉ちゃんを蹴落としてでも出たい。この身長でフォワードができることを武器としたい」と妹も負けていない。言いたいことを言い合える2人だが、姉は妹を「高校でもWリーグでも、環境にすぐに適応できるところがすごい」と尊重し、妹は「私より経験がある分、周りが見えている」と認め合う。夢である東京五輪に出場するには、この2年間で国際大会の経験を積み、自信をつけることが必要。日の丸争いにおいて、2人はポジションこそ違えど、競い合うライバルなのだ。

 ただ個性もプレースタイルも違う2人だが、楽しみにしていることは同じだ。シーズンオフに実家へ帰った際には、能登半島の海で獲れた新鮮な魚やお寿司をたらふく食べる。
「家の近所にあるお寿司屋のウニがすごくおいしくて大好物です」(さくら)
「魚の味も新鮮さも抜群。石川は魚が本当においしいんですよ」(ひまわり)

 両親のモットーであるように、能登の魚をたくさん食べて、太陽をたくさん浴びて丈夫に育った2人は成長の階段を駆け上がっている最中。東京五輪、そしてその先へ――。

 赤穂さくらとひまわりはそれぞれの花を咲かせる準備をしている。

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著者プロフィール

スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者となる。日本代表・トップリーグ・高校生・中学生などオールジャンルにわたってバスケットボールの現場を駆け回り、取材、執筆、本作りまでを手掛ける。

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