戸邉直人、好調を維持しGGPを優勝 世界で戦うため強敵そろうアジアで勝負

折山淑美

日本記録に挑戦も「恐怖心」が出た

ゴールデングランプリ大阪で男子走り高跳びの日本記録である2m34に挑戦した戸邉だったが、成功することはできなかった 【写真:アフロ】

 5月20日に行われた陸上のゴールデングランプリ大阪(大阪・ヤンマースタジアム長居)。男子400mハードルが終わり、次の女子100mと最終種目の男子4×100mリレーへ向けて場内の興奮度が高まっていく中、第3コーナーと第4コーナーの間に設置された男子走り高跳びのピットでは戸邉直人(つくばツインピークス)が日本記録の2m34に挑戦していた。

「自分がいいと思う踏み切りができれば2m34も跳べるなというのもあったけど、走り高跳びの場合は高いバーを前にすると恐怖心のようなものが出てきてしまい、どうしても助走のスピードを上げたくなってしまうんです。1本目と2本目は完全にそんな感じで、助走を速くしてしまって踏み切りにつながらなかった」

 こう話すようにその跳躍は、体が空中に上がる途中でバーを落とすような結果だった。だが3本目は「助走も少し落ち着いて入れたかなという感じだった」と言うように、体は浮いた状態でバーを落とした。「3本目の跳躍を1本目にできていたら、ちょっと内容が違ったかもしれないなと思いますね」と苦笑した。

 戸邉が日本記録の2m34に挑戦するのは4回目になったが、その高さにいつも恐怖心を感じるわけではなく、その時の調子によると話す。ただ、今回一発で跳んだ2m30も、背中でバーをこすりながらのジャンプで成功していたこともあり、「正直あの時は、跳び終わってから顔を上げたらバーが残っていたのでちょっとビックリした」という跳躍だった。それまでの跳躍での疲れもあったうえ、その時点では王宇(中国)と同記録ながらも失敗試技数の差で1位になっていたこともあり、自己記録を1センチ超える2m32の挑戦はパスしていた。

 そんな状態だったからこそ2m34に恐怖心を感じてしまったのだ。

調子が上がらずも慎重に跳躍へ臨む

2m30を一発で成功させ、GGP優勝を決めた戸邉 【写真:アフロ】

「5月3日の静岡国際のあとでこの大会へ向けて1週間の強化練習をしましたが、そこでちょっと練習を積み過ぎたかなという感じがありました。調整としては上手くいっていなかったので、その中でどれだけ出せるかなという感じでした」

 あまり状態が良いとは言えないため、本当なら2m20から跳び始めたかったところを、2m15からにした。ライバルになる選手との力関係を考えると、4月の英連邦大会で2m32の自己新を跳んで優勝したブランドン・スターク(オーストラリア)や、2m33の記録を持ち3月の世界室内選手権で6位になっている王は2m28や30は跳んでくるだろうと予想した。

 その戦いで勝つためにはそれぞれの高さを1回目で跳ぶことが非常に大事なものになってくる。そのため、一本一本いい動きをするということにすごく気を使った。体調がそれほど良くないからこそ集中しなければいけないという思いがそれぞれの跳躍を大事にさせ、2m15から20、25、28、30と1回目の跳躍でクリアさせたのだ。

 ライバルとなるスタークは2m20で一度失敗をし、28は3回目でクリア。2m30は跳べずに終わった。さらに王も25で一度失敗をし、30も2回目で成功と劣勢になり、2m32を3回失敗。その時点でひとり残った戸邉の優勝が決まったのだ。

1/2ページ

著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント