戸邉直人、好調を維持しGGPを優勝 世界で戦うため強敵そろうアジアで勝負

折山淑美

静岡国際でも納得の跳躍ができていた

今シーズンは早い段階で2m30を成功させ、その後も好調を維持している 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 2010年世界ジュニア銅メダル獲得の実績を持つ戸邉が、自己記録の2m31を跳んだのは14年5月のセイコーグランプリ東京大会。その年の世界ランキング12位となる記録だった。戸邉は夏のヨーロッパ遠征でも9月のダイヤモンドリーグ・ブリュッセル大会の自己タイを筆頭に、ほかの2試合で2m30も跳び、06年に醍醐直幸(富士通)が出していた2m33の日本記録更新に王手をかけたかに思えた。

 2m29を跳んだ15年以降はケガもあって記録は伸びず、15年の世界選手権を最後にリオデジャネイロ五輪など、世界大会出場も逃し続けていた。昨年も2月のドイツ室内大会で2m26を跳ぶいい滑り出しをしながらも、日本選手権はケガもあって2m20で3位と低迷。しかし今年は2月のベルギーの室内大会で2m26を跳んで屋外シーズンに入ると、4月の筑波大競技会で4年ぶりに2m30を跳んだ。

 そして5月3日の静岡国際でも2m28を跳んで優勝を決めたあと、踏み切る直前が向かい風になる厳しい条件の中でも自己記録の2m32に挑戦。「風に対応するのが難しかったけど、4月に30を跳んだ時もあまりコンディションが良くなかったので、今日もいけるかなと思って30を目標にしていました。28を跳べたので前回の30がまぐれじゃないなと確認できたのは良かったですけど、2m32の最後の跳躍は途中で風がワーッとくる感じだったので、ちょっと集中力が途切れました。それにしてはいい感じの跳躍だったので、自己新は出せなかったけど納得はしています」と話していた。

2m30をアベレージで跳べるように

今シーズン最大の目標は8月のアジア大会。強豪がそろうアジアの戦いで、上位進出を目指す 【写真:アフロ】

 今年からこれまでは7歩だった助走の歩数を9歩にしているのがハマッている。昨年はケガも多くて跳躍練習ができずにいろいろなことを試合で試しているような状態だったが、今年は跳躍練習が積めて練習の中で試せているので、試合ではこう跳ぶというのが決まっているのが好調を維持している要因だともいう。

「これまで2m34に挑戦した跳躍の中には今日よりももっと惜しいのもあったけど、逆に言えばもっともっと体の状態を上げていけばいけると思うし、技術的にも自分が思う形にすれば34は跳べるかなと思います。今季はここまで今日も入れて30、28、30と高いレベルでやれているので、その点では気負いもなくというか、落ち着いてしっかり力を出せば、今日くらいのメンバーの中ではしっかり戦えると思っていました。でも僕はどちらかというと強い選手たちがいる方が、それにつられて跳ぶタイプかなと思うので。これまでの3連戦は自分より強い選手があまりいない試合だったので、来週から欧州へ行くので、その中でいい試合ができたらと思います。もっともっと強い選手たちとやって、どんどんバーが上がっていく中なら、あまり気負うこともなく日本記録に挑戦できるのではないかなと思っています」

 今季の戸邉が大きな目標にするのは、初出場だった4年前は5位に終わったアジア大会(インドネシア・ジャカルタ)でしっかり勝負することだ。この種目はアジア勢が強く、昨年の世界選手権でもムタズ・エサ・バルシム(カタール)が優勝してマジュド・エジン・ガザル(シリア)が3位になっている。また記録を見てもバルシムの2m43に張国偉(中国)の2m38が続き、ガザルが2m36、王宇が2m33、禹相赫(韓国)も2m30の記録を持っている。世界で戦うためにはまず、アジアでしっかり戦えるようにならなければいけないのだ。

 そのためにも今の戸邉に必要なのは、過去2回優勝している日本選手権を醍醐の2m33の日本記録とまではいかなくても、2m30はしっかり跳んで勝つこと。今跳べている2m30台をしっかり自分のアベレージにし、そこから記録を伸ばしていくことが必要になるだろう。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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