繰り返されるロシアフーリガンによる暴動  W杯の現地観戦に危険はあるか?

服部倫卓

当局に飼い慣らされているフーリガン

ロシアのフーリガンは、体制と一体化した存在と言っても過言ではない 【写真:ロイター/アフロ】

 今日では、ロシアのフーリガンは、体制と一体化した存在と言っても過言ではない。彼らは、おそらくは金銭的な見返りを得つつ、プーチン政権による民主化運動や市民運動の弾圧に加担したりしている。マッチョイズム、排外主義といったフーリガンの価値観は、実はプーチン体制のイデオロギーと通底するところがあるのだ。

 ただし、本年のW杯は世界が注目する晴れ舞台なので、ロシア当局はフーリガンという恥部を慎重に覆い隠そうとしている。W杯が近付くにつれ、本件を担当する内務省過激主義対策センターによるフーリガン統制は厳しさを増している。主要なフーリガンチームの幹部は頻繁に当局に呼び出され、大会期間中は騒ぎを起こさないよう、厳重に警告を受けている。

 当局は、普段からフーリガンたちの微罪に関する情報を蓄積し、彼らが体制の意に沿わない振る舞いをすれば、いつでも逮捕できるよう準備している。フーリガンといえども、妻子のいる者も多く、普段は仕事や学校に通っているので、収監されたり、勤め先や学校から追放されるようなことがあっては一大事だ。

 また、フーリガンチームは民間警備会社などの副業を営んでいる場合が多いのだが、もしも当局ににらまれたら、そうしたビジネスも握りつぶされてしまう。こうしたリスクがあまりに大きいことから、本年のW杯でロシアのフーリガンが外国のサポーターと衝突するようなことはまずないだろう、というのが関係者の一致した見方である。

現地観戦の危険はゼロではないが……

ポーランドのサポーターたち。ロシアのフーリガンとは衝突する可能性もある 【写真:ロイター/アフロ】

 ただし、W杯でロシアのフーリガンが暴走する危険性が、まったくないわけではない。

 フーリガンの中でも一定層は治安当局の統制下にあるものの、地方クラブのフーリガンには必ずしもコントロールが及んでいないし、分別のない未成年層にも危うさがある。また、多くのフーリガンは「自ら騒ぎを起こすつもりはないが、敵側が挑発してきたら受けて立つ」と語っている。

 ロシアともめ事を起こす危険性が最も高いのは、ポーランドとイングランドである。日本はポーランドとグループリーグで対戦するし、首尾良く決勝トーナメントに進んだならば、イングランドとぶつかる可能性もある。ロシアは概して親日的な国であり、フーリガンが日本人サポーターに危害を加えることはまず考えられないが、ロシアとポーランド、イングランドの抗争に日本人が巻き込まれる恐れがまったくないとは言えないので、その点だけは気を付けてほしい。

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著者プロフィール

1964年静岡市生まれ。一般社団法人ロシアNIS貿易会・ロシアNIS経済研究所副所長。ロシア・ウクライナの政治経済事情研究の一環として、現地のサッカー事情にも関心を寄せる。ブログは、http://hattorimichitaka.blog.jp。

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