誰もが“勝者”になった歴史的激闘 ロマチェンコがリナレス退け3階級制覇
ガルシアとのライト級統一戦にも注目
ロマチェンコはさらなる高みに到達するのか。ガルシアとのライト級統一戦が実現すれば、現代屈指の好カードになる 【Photo by Al Bello/Getty Images】
予想以上に大きかったリナレスの壁を乗り越え、ロマチェンコはさらなる高みに到達するのか。あるいはここで神話が薄れ、“人間らしさ”を垣間見せていくのか。米国のリングで少しずつ階段を上がり、ついに特上のビッグステージに上り詰めたスーパーボクサーの行方からもうしばらくは目が離せない。
新たな夢が膨らんだリナレスの戦いぶり
敗れはしたが、リナレスはあらためて実力を証明。その堂々たる戦いぶりは、今後を再び楽しみにさせるに十分だった 【Photo by Al Bello/Getty Images】
試合後、リング上でのリナレスのコメントからは、下馬評不利と目された一戦をほぼ互角に戦った自負と、最後の最後で仕事を果たし切れなかった悔しさの両方が滲んだ。後半勝負はプラン通りで、ストップされた10回ですらもダウン直前まではやや押し気味。世界にショックを与える番狂わせは目の前にあっただけに、逃した魚は大きかった。
その一方、今戦でリナレスはエリートレベルの実力をあらためて証明したとも言える。“ベネズエラのゴールデンボーイ”と喧伝(けんでん)されながら、2011〜12年には悪夢の2連敗。打たれもろさも指摘され、3階級制覇という肩書きが示すほどの存在感があったとは言い難い。そんなリナレスが、ESPNで全米生中継された大舞台でロマチェンコからダウンを奪い、ポイントでもイーブンにわたり合うほどに追い詰めた。最後は相手の引き出しの多さに屈したが、冒頭で述べた通り、敗戦を通じて知名度、評価はむしろ上がったのではないか。
「ずっと頑張ってきて、我慢して、やっと手にしたチャンス。だからこそこの試合は絶対に負けられない」
試合直前の筆者とのインタビューで、リナレスは何度もそう繰り返していた。32歳にしてようやくたどり着いたビッグファイト。結局、悲願はかなわなかったが、本人の思いに反し、これで終わったわけではない。
例えタイトルを失っても、試合内容で魅せられる選手には機会はまた訪れる。ロマチェンコ戦でのリナレスの堂々たる戦いぶりは、今後を再び楽しみにさせるに十分だった。ロマチェンコとのリマッチ、ガルシアへの挑戦など、新たな夢が膨らんでいく。だとすれば、5月12日に敗者はいなかった。チャンピオンも、挑戦者も、ボクシング関係者も、そしてファンも、誰もが“ウィナー”になった稀有なビッグステージだったのである。