佑介ついに獲った! 15年目のGI初勝利 ケイアイノーテック秋は中距離路線も視野

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まさかのスタート後手……「腹をくくるしか」

スタートで後手も「腹をくくった」と藤岡、最後の直線はただ1頭33秒台の上がりで大外を突き抜けた 【スポーツナビ】

 ただ、この栄光のゴールに至るまでには、「考えていた作戦が全部吹っ飛んだ」ほどの、大きなアクシデントが序盤で起きていた。レースをアタマから見たファンならばもうお分かりでしょうが、スタートで後手を踏み、まったく想定していなかった後方2番手からの追走。いや、正確にはゲートはむしろ好スタートで出ているのだが、次の二完歩、三完歩目がまったく出なかったのだ。藤岡佑が苦笑交じりに振り返る。

「ゲートの中ではすごく姿勢もいいですし、きれいに一完歩目は出たんです。でも、その後がびっくりするくらい遅くて(苦笑)。これはもう腹をくくるしかないと」

 きょうはゴール板の方角から4コーナーへと吹く強い“向かい風”の影響もあったか、差しが決まりにくい傾向。これを見越して藤岡佑は当初「中団より前で流れに乗っていきたい」と考えていた。しかし、ふたを開けてみれば後方2番手。用意していたプランのどれにも当てはまらないわけだから、ちょっとしたパニックになっても仕方ないものだが、藤岡佑の15年にわたる経験と頭脳、そして修羅場を何度もくぐってきた度胸が、すぐに最善手を導き出した。

「これだけ遅れたら外から行くしかない。長く持続する脚を使うというイメージでしたし、踏み遅れないようにエンジンをかけることだけに専念していました。強い風の影響もあったので、むしろ大味な競馬をした方が生きてくるのかなと思って、馬を信じて乗りました」

勝利の余韻を噛み締めながらのウイニングラン、ファンも一段と大きな声援を送った 【スポーツナビ】

 手綱を託した平田調教師は「佑介はクレバーなジョッキー。自分で考えて、その時に合った一番いい乗り方をしてくれる」と、特に注文をつけずに送り出したと言う。その期待通り、藤岡佑はまさかのアクシデントもプラスに変える好騎乗で、ケイアイノーテックの能力を新味とともに100%引き出してみせたのだ。

「エンジンがかかった瞬間は素晴らしい感触でしたね。これならもしかしたら、と思いました。ただ、ゴールした瞬間は内と外で離れていたので、これは一番やってはいけないことなんですけど、2着のジョッキー(ミルコ)に確認してしまいました。『(ミルコは)アナタ、勝ってるよ!』って(笑)」

距離延長もOK「まだまだ可能性のある馬」

 人気の面ではタワーオブロンドンが1頭抜けているオッズだったが、数字以上に混戦だった今年の3歳マイル決戦。昨年6月にデビューし、これが7戦目となる叩き上げのディープ産駒が見事頂点に立った。奇しくも、英国でも3歳クラシック初戦の2000ギニー(1600メートル)をディープ産駒のサクソンウォリアーが勝利しており、海を越えた日英マイルGIでディープインパクト産駒が立て続けに勝利する、歴史的な週末となった。

 サクソンウォリアーは次走、大本命で英国ダービーに臨むことになりそうだが、ケイアイノーテックはダービーに向かわず、秋に向けて休養に入るとのこと。そして、気になる秋競馬の路線だが、平田調教師は意欲的にこう語った。

「きょうみたいな競馬ができるなら距離はもちそう。秋はちょっと延ばしてみようかなと思いますし、色々と試してみたいですね」

秋は中距離路線も視野に入れている 【スポーツナビ】

 直に背中の感触を味わった藤岡佑も、ケイアイノーテックの中距離戦線チャレンジには諸手を挙げて賛成している。

「追い切りに乗せてもらったときには、本当にマイルの馬かな?って思うくらい落ち着いていました。やっぱり3歳でマイルの馬だと気の勝ったタイプが多いですから。ですので、この馬だったらむしろ距離が延びた方がいいのかなとも思います。そういう意味も含めて、まだまだ可能性のある馬だと思いますよ」

 平田厩舎とNHKマイルカップと言えば、4戦無敗で制したカレンブラックヒルを思い出す。この馬も秋は中距離路線に矛先を転じ、初戦のGII毎日王冠ではエイシンフラッシュ、ジャスタウェイらを撃破し勝利。その後、残念ながらGIには手が届かなかったものの、大きな可能性を示したことは確かだった。そのカレンブラックヒルを超える存在となるか。どこまでも可能性が広がるケイアイノーテックと、円熟味を増しトップジョッキーへの階段を着実に上がっている藤岡佑と――競馬界にまた1組、名コンビが誕生しそうな予感だ。

(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)

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