【RIZIN】チャンピオンとして動き出した浅倉カンナ「コツコツ積み重ねて結果を出していく」

長谷川亮

昨年大みそ日の大会でRENAを破り、初代RIZIN女子スーパーアトム級王者となった浅倉カンナ 【スポーツナビ】

 今年最初となる総合格闘技イベントの「RIZIN.10」(福岡・マリンメッセ福岡)が5月6日に開催される。全12試合のメインを飾るのが堀口恭司とイアン・マッコール(米国)のスペシャルワンマッチ。セミは“神童”那須川天心と中村優作のキックボクシング戦、第10試合が浅倉カンナとメリッサ・カラジャニス(カナダ)の女子スペシャルワンマッチと、昨年の大みそ日に勝利を飾った3人がそろい踏みとなる。

 大みそ日の大会では女子格闘技界の“ツヨカワ”の象徴でもあるRENAを破り、見事初代RIZIN女子スーパーアトム級王者となった浅倉カンナ。高校を卒業したばかりの新社会人ファイターが、大番狂わせを演じた。

 今年初戦となる福岡大会ではメリッサ・カラジャニス(カナダ)と対戦。米国の老舗団体KOTC(キング・オブ・ザ・ケイジ)を主戦場とする30歳のファイターとどんな戦いを見せるか。今回は試合を控える浅倉にインタビュー取材を行った。

大きく変化した1年 お父さんとの二人三脚も卒業

2017年はたくさんの変化があった1年だった。クローズアップされた父親とのトレーニングもなくなってきた 【スポーツナビ】

――昨年は年末のトーナメント優勝はもちろん、春には高校を卒業して、大きな変化のあった1年でしたね。

 卒業して指導も入って自分で教えるようになって、そこから一人暮らしも始めて、いろいろ変わった1年でした。高校生だったから練習量も限られていた部分が1日2回練習できたり、プロの格闘家として意識はすごく変わった1年でした。3月は卒業シーズンでしたけど、自分が卒業してもう1年たつのかと思うとこの1年間とても早かったですね。
 今までお父さんが一緒にいたのでお父さんに言われてやることもあったんですけど、今はもう1人なので、「言われなくてもやらなきゃ」っていう思いもあるし、だんだん1人でもできるようになってきたかなと思います。

――浅倉選手といえば、テレビでもたびたび取り上げられるお父さんとの練習・取り組みが有名です。

 最初はやらされている感じが強くて、練習もひたすらお父さんについていった感じだったんですけど、それがそのまま当たり前になって今も毎日練習するのが当たり前だし、そういうのはお父さんがあの時そうしてくれたからなんだなって今になって改めて思います。

 最初レスリングを始めた頃は1年半ぐらい1勝もできなかったんです。もともと力も全然ないし、ご飯も全然食べなくて、それをお父さんが「こんなんじゃ勝てないぞ」って言って練習を見てくれていたので、それが今も続いて自分の力になっているのかなって思います。

――今もお父さんと練習を?

 今は基本的に道場で練習をやっていてお父さんとは練習していないです。道場の先輩方も強い選手がいっぱいいるので、そこの人たちに混ざって一緒にやってもらっています。卒業して一人暮らしを始めてだんだんお父さんと離れて、今はほんと自分でやるようになりました。

――お父さんは寂しい思いをされているのではないですか?

 どうですかね(笑)。そういう話はあまりしないですけど、逆に「やっと自分でできるようになったんだな」っていう風に見てもらえていればいいなと思います。

藤井との練習で極めに行く自信がついた

年末のトーナメントでは2試合とも一本勝ち。極め技にも自信がついてきた 【(C) RIZIN FF】

――年末のトーナメントはこれまでのイメージを覆し、2試合ともの一本勝ちでしたが、これは試合前に指導を受けた女子格闘技のレジェンド・藤井惠さんの存在が大きかったのでしょうか。

 それはほんと大きかったです。11月後半ぐらいに何か得るものがあるんじゃないかと思ってご連絡したら「全然おいで」って言ってくれたので行きました。3泊4日で行ったんですけど、もう毎日死ぬほど追い込まれました。作戦とかそういう部分はこっちで練習しているので細かい部分をすごく教えてくれて、あとはメンタルも鍛えられました。アドバイスも1個1個が響いたし、佐々木(信治、藤井の夫でRIZINにも出場した第6代修斗環太平洋ウェルター級王者)さんも「もっと自信を持って行った方がいいよ」って言ってくれて、それが大きかったです。それで試合も思いっきり動けました。

――トーナメント準決勝と決勝でともに一本勝ちを果たした飛躍には、そうした精神面での変化が大きかったと。

 全然違いました。自分でもビックリするぐらい、こんなに違うんだって。たぶん藤井さんのところへ行ってなかったら極められなかったと思うし、それぐらい大きかったです。

 今まで練習中は結構一本が取れていたんです。だけど試合では出せなかったので、そこを背中を押してもらえたというか。やっぱり試合と練習では全く違うので、それをいかに練習通り試合に出せるかというところじゃないですか。それが今まではできていなかったんですけど、本当に藤井さんと佐々木さんの言葉で極めに行く自信・思い切りをつけてもらいました。

――大晦日の2勝で極めの感覚をつかめたのではないですか?

 うーん、自分的にはまだあまりつかめていなくて、だから次が勝負ですね。こないだは本当に必死で、勝った後は無事に試合を終えたんだなっていう気持ちが大きかったです。でも、そこから「二本も極めてスゴかったね」みたいに言われて、これは次も極めなきゃヤバいみたいに思って、だんだんそうやってプレッシャーになってきました(苦笑)。けど、ここからがまた新しいスタートで、チャンピオンになってからのスタートでもあるので、勝ち方にもこだわっていきたいです。

――チャンピオンとなって変わったことはありますか?

 道場に戻ってくると、ほんとみんな強くてボコボコにされるので、強くなっているのか分からないです(苦笑)、あまり変わらないですね。強くなっているのかなと思っても、みんなが強くてやられてやられてなので、やっぱり調子に乗っちゃいけないんだなって。だから冷静に戻れます。でも、それがいいのかもしれないです。強くなったと思って浮かれていると練習も気が入らないと思うし、怖さとか焦りがあった方が自分は追い込めるので、余裕があまりない方が自分は強くなれると思います。

格闘家として一番自分を出せるのはリングの上

「チャンピオンにはなったんですけど、まだまだチャレンジャーとしての気持ちも忘れずにやっていきたい」と話す浅倉 【(C) RIZIN FF】

――大晦日から4カ月が空き、今年の第1戦となるメリッサ・カラジャニスとの試合が近づいてきました。こちらを目前にいかがでしょうか。

 チャンピオンにはなったんですけど、まだまだチャレンジャーとしての気持ちも忘れずにやっていきたいです。まだまだ伸びるところはたくさんあると思っているので、それをいろんな人に見てもらえるような試合ができればと思っています。去年もちょっとずつちょっとずつっていう感じだったので、今年もまた「強くなっているな」と思われる試合をしたいです。

――米国のKOTCで活躍するというカラジャニスについてはいかがでしょう。昨年山本美憂を降したアンディ・ウィン(米国)にも勝利している選手です。

 なかなか映像が見つからないんですけど、次は打撃のパウンドで決められたらいいなと思ったりしています。

――二十歳となりチャンピオンにもなって、今後はいかがですか?

 大きい目標っていうのは全くないんですけど、チャンピオンになれて、またここからなのでまず5月しっかりいい勝ち方をしたいです。レスリングをやっていた時もなかなか勝てなかったので大きな目標は持っていなくて、本当に「この大会を優勝する」って思って、コツコツコツコツやってきたので、今もその感覚が抜けていないんです。だから大きな目標っていうより、目の前のことをコツコツコツコツやっていって、それが大きい目標に繋がっていくのかなって思います。

 総合でも大きい目標はなかったんですけど、こうやって続けてチャンピオンになれたので自分でもビックリです。もともと「打撃なんて怖くて無理」っていう感じだったので、本当に練習の積み重ねなんだなって。毎日毎日やっていれば絶対ちょっとは強くなるじゃないですか。だから努力っていうか積み上げてきたものは結果に出るっていうことは一番伝えたいです。

――積み重ねていくことの大切さがチャンピオン・浅倉カンナのメッセージだと。

 なかなか「チャンピオン」っていうのが言われ慣れなくて(苦笑)、自分のことは普通だと思っています。でも普通の人が積み重ねでここまで来たので、これからも積み重ねていっていずれ大きな結果が出ればいいなと思います。自分でもこれからどうなっていくか全然想像できないですけど、格闘家として一番自分を出せるのはリングの上なので、懸けてる思いとか実力をリングで出していければいいなと思います。コツコツやっていくことの大切さ、そこが一番伝えたいです。
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著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

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