【RIZIN】今年は“対世界”を掲げる矢地祐介「強い選手とどんどんやりたい」

長谷川亮

今年最初のRIZIN福岡大会に出場する矢地祐介にインタビュー 【スポーツナビ】

 今年最初となる総合格闘技イベントの「RIZIN.10」(福岡・マリンメッセ福岡)が5月6日に開催される。全12試合のメインを飾るのが堀口恭司とイアン・マッコール(米国)のスペシャルワンマッチ。セミは“神童”那須川天心と中村優作のキックボクシング戦、第10試合が浅倉カンナとメリッサ・カラジャニス(カナダ)の女子スペシャルワンマッチと、昨年の大みそ日に勝利を飾った3人がそろい踏みとなる。

 また第9試合では、こちらも昨年末の試合で“火の玉ボーイ”五味隆典を打ち破り、世代交代を印象付けた矢地祐介が登場。16年末の大会でRIZINに初登場すると、マリオ・シスムンド(フィリピン)を秒殺で沈め華々しいデビューを飾る。そして17年も元UFCファイターのダロン・クルックシャンク(米国)、北岡悟、五味と3戦ともKO決着で勝利している。

 福岡ではディエゴ・ヌネス(ブラジル)と対戦。UFCや欧州の団体で戦ってきた強敵に対してどんな戦いを見せるか。今回は試合を控える矢地にインタビュー取材を行った。

“ジビエ”の効果で絶好調が続く!?

現在の絶好調は“ジビエ”のおかげ!? 【スポーツナビ】

――季節もすっかり春となり暖かくなってきましたが、調子はいかがですか?

 認めてはいないんですけどちょっと花粉症があって(笑)、でも暖かろうが寒かろうが常に調子はいいし絶好調です。

――その絶好調の秘密は矢地選手が好んで食べているジビエにあるのではと見ているのですが?

 そうですね、摂り始めてから戦績もいいし、ほんとジビエとの出会いで変わりました。RIZINに上がるちょっと前ぐらいにジビエをやっている方とたまたま出会って、応援したいということで送ってもらうようになったんです。でも最初は臭いのかなと思ったし、食べれなかったらどうしようと思っていたんです。けど本当に美味しくて臭みも全然ないし、アスリート向きの肉で最高です。体への反応もすごくよくていいことばっかりだし、もう試合前2カ月ぐらいは毎食と言っていいほどシカとかイノシシを食べてます。

――通常の肉とジビエで実感される違いはいかがですか?

 味も食感も違うし、やっぱり重くないというか、もたれません。あとは栄養素的な話になると思うんですけど、疲労の抜け方が違ったり鉄分も多いみたいなので、以前は練習量が増えると週末とか貧血気味になることが多かったんですけど、それがなくなりました。昔はちょっと血が足りないなっていう時はレバーを食べたりしていたんですけど、そういうのもなくなってジビエを食べていれば全然調子がいいです。

減量の苦しみが減ることでメンタルが安定

減量の苦しみが減ることで試合にも集中。格闘技はメンタル勝負と話す 【(C) RIZIN FF】

――ジビエを食べるようになりRIZIN参戦後はKOが続きました。野生の血が騒ぐではないですが、何か関係があるのでしょうか?

 ジビエもすごく関係あると思うんですけど、あとは階級を上げたのが一番デカいと思います。減量苦から解放されて、精神的によい状態で試合まで過ごせて、さらには試合もいい精神状態で迎えられるようになったので、格闘技が楽しくなったというか。試合を楽しめるようになって、そこがすごくデカいです。

 以前は試合前2カ月半か2カ月前から減量に入って、練習のうち3割か4割ぐらいは相手への練習や強くなる練習じゃなくて体重を落とすための練習になっちゃっていたんです。体重を落とす練習が大部分を占めて、食事も常に節制してという風になってくるとメンタルがやられちゃうんですよね。だから「あの頃の矢地はすごくネガティブだった」とか「覇気がない」ということはよく言われました。年に3、4回試合だったらほぼ半年以上減量しているので、自分はそれが当たり前で全然気づいていなかったんですけど、振り返ってみるとたしかにそうだったなって思います。

――それが今はライト級に階級を上げたことで減量苦から解放され、楽しめるようになった?

 今までは体重を落とすのに費やしていた時間を、今だったら相手の対策だったりをする練習に時間を割けるので楽しいです。体重を落とすのは単調なつまらない作業になるし、疲労も溜まって強くなるっていうより弱くなっていくような感覚もあるし。そういうのから解放されて、今は常にエネルギー満タンです。だから好調なのはそれが一番デカいと思います。

 僕は格闘技って8割ぐらいがメンタルの競技だと思ってるんです。やっぱり気持ちの強い奴が勝つし、気持ちひとつで試合の運び方が変わってくる。試合の時によい精神状態じゃなくネガティブだったり後ろ向きだったりすると自分のパフォーマンスも出ないし、ほんとメンタルは格闘技においてすごく大事だと思います。

――以前減量苦のあったフェザー級時代は、試合をしていても「この技を出したら返されるんじゃないか」などと思いながら試合をしていたそうですね。

 もうネガティブにしか考えられなくて、「これをやったらダメだ」とか「これはやられちゃう」とか、もう後手後手になって相手のペースに飲まれて、それでやることがやれなくて負けちゃうみたいな感じでした。試合中の使える脳みその幅が狭いというか、頭が回らなくて考えられないんです。でも今はいろんなことを考えながら試合ができます。

――では、それがRIZINへ来てからの良い結果に繋がっていると。

 そうですね、いろんなことを考えてこれをやってみよう、あれをやってみようって。その中でこれはダメだ、じゃあこっちにしてみようとか、いろんなことを試合中に考えてできました。それこそ余裕ぶっこいてる訳ではないんですけど、盛り上げるにはどう戦ったらいいんだとかを考えられるぐらいまで、頭の使える幅っていうのが大きかったです。なので、ほんとメンタルは重要だと思います。やっぱり気の強い奴が最後の最後、土壇場で勝ちますから。それは最近すごく感じます。

――やはり練習の時からよい精神状態で臨むのが大切で、試合もまたしかりであると。

 それができてからは調子が良いので、なおさらメンタルなんだなって思います。だってこの1年、2年でそこまで飛び抜けて技術とかが変わる訳じゃないし、いきなり別人にはなれないから、じゃあ何だって考えた時に、やっぱり1番違うのはメンタル、気持ちの持ちようだったんです。それで全然結果が違ってくるから面白いなって。段々つかめてきています。

「とりあえず派手なことをしてやろう」が“矢地流”

年末にレジェンドファイターである五味隆典を破り、これからは「70キロ級の顔」として日本の格闘技界を引っ張る 【(C) RIZIN FF】

――そんな中、年末にレジェンド・五味隆典選手を破った試合は反響が大きかったのではないでしょうか?

 そうですね、やっぱり地上波でああして放送してくれたので、いろんな人から「よかったね」とか「おめでとう」と言ってもらえました。五味さんと戦って勝って、五味さんに「もう70キロは任せたよ」と言ってもらえて、その一言はやっぱりうれしかったです。あそこからもう先輩たちじゃなく俺なんだ、70キロの顔として日本、RIZINを背負って戦っていかなきゃいけないんだっていう自覚を持つようになりました。

――今年は“対世界”を掲げ、第1戦となる5.6福岡大会ではブラジルのストライカー、ディエゴ・ヌネスと対戦します。

 一通りメジャー団体も出ていていい選手ですよね。WECも含めるとUFCでは勝ち越しているし、強い相手にも勝っている強い選手です。そう考えると、今回戦って世界の何となくの力が知れるのかなっていう風に思っています。だからここは絶対当たり前に越えなきゃいけないし、もちろん勝つつもりでやります。

――年末の五味戦こそ一本勝ちでしたが、RIZINでは4勝のうち3KOを上げた打撃が目立っています。あれは様々な要素が入り混じった“矢地流”なのでしょうか?

 そうですね(笑)、矢地流というより『KRAZY BEE流』ですかね。やっぱりうちのボスのKIDさんがああやって派手な試合をするのを見て僕たちは育っているので、影響されてそういう風になりたいっていう気持ちがあって、最近はああいう戦い方になりました。

――特にRIZINデビュー戦となった16年末のマリオ・シスムンド戦では速攻を仕掛け、わずか19秒での勝利でした。あの思い切りは出そうと思って出せるものではないと思いますが、どのようにして可能になったのでしょうか?

 あの頃はもちろんRIZINで通用する自信はあったけど、判定が多くてテレビ映えする試合はしてこなかったし、そんな時に声を掛けて頂いたので、出られてラッキーだなって思ったんです。そういう意味で、せっかくだしもう思い出作りに派手に戦おうと思って。一生懸命やっていてもRIZINに出られない選手が大半の中、こうやって選んでもらってせっかくあの大きい舞台でできる。こんなところで勝ちにこだわって小さくまとまってもしょうがねぇなって。今回で一生RIZINに出られないかもしれないし、そう思った時に思いっきり楽しもうと思ったんです。周りにも「いい思い出作りをしてきます」って言っていました(笑)。それでとりあえず派手なことをしてやろうと思って、ああいう戦いになったんです。

――でも、それが結果的に現在の“矢地流”の戦い方を開眼させたと言いますか。

 そういう心構えでやって結果的によい方へ転んだので、“ああこれだ”って。俺はこういう心構えの方がパフォーマンスが出るんだなって気づいたし、今まで勝ちにこだわっていてあまりいいことがありませんでした。じゃあお客さんのためにお客さんが喜ぶ試合をしてみよう、そう思って派手に戦った時によい結果が出たので、じゃあこっちでやってみようと思ったんです。そうしたら自分のパフォーマンスもよくなっていきました。

 以前は「別にお客さんがいようがいまいが関係ない」みたいなマインドで、ただ自分の目の前の1勝を掛けてやっていたので、それがよくなかったですね。そうなると硬くなっちゃうし、守りに入っちゃうしダメでした。今の方が合っているみたいです。

――今年も矢地選手らしい派手な戦いと勝利を期待していますが、最後に今後の意気込みをお願いします。

 そうですね、今後は海外の強い選手とどんどんやっていきたいし、それで「矢地とやりたい」っていう強豪が来てくれるような選手になりたいです。戦いたいやつはいっぱいいるんですけど、ベンヘン(ベンソン・ヘンダーソン)とロン毛対決はやってみたい(笑)。今年もオール一本とか全KOで行きたいし、声援が本当に力になるので会場まで応援に来てください。お祭りを見に来てほしいです。
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著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

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