ローマの指揮官は「クレイジー」な男 CLベスト4に導いたのは中田英寿の元同僚
「クレイジー」な戦術でバルセロナを撃破
今シーズンより、現役時代の古巣ローマで指揮を執るディ・フランチェスコ監督 【Getty Images】
現地時間4月10日のチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝第2レグ、ホームのスタディオ・オリンピコでバルセロナを完璧に封じ込めて3−0と圧勝し、第1レグの3点ビハインドをひっくり返してベスト4進出を決めたローマのエウゼビオ・ディ・フランチェスコ監督、試合直後のコメントである。
1週間前にカンプノウで行われた第1レグは、バルセロナが4−1で大勝していた。すでに決着はついたも同じ、第2レグは実質的に消化試合――というのが大方の観測だった。実際、前日会見では地元ローマの番記者から、週末に控えていたローマダービーに向けて主力を温存する気はないのか、という質問すら飛び出していたほどだった。
ところがふたを開けてみれば、ローマのアグレッシブかつ効果的なハイプレスの前に、バルセロナは自陣からボールを持ち出すことすらままならない困難に陥り、ほぼ手も足も出ないまま敗れ去るという、誰一人予想だにしない大番狂わせとなった。それをもたらしたのは、ディ・フランチェスコ監督自身が「クレイジー」と言うほどにリスクの大きい、ローマの思い切った戦術変更だった。
大一番でぶっつけ本番の3バック
CL準々決勝で、ローマはバルセロナを相手に大会史に残る逆転劇を見せた 【Getty Images】
前線からのハイプレス自体は第1レグでも間欠的に用いられた。とはいえ、ボールホルダーにプレッシャーをかけるよりもパスコースを遮断するのが狙いで、最終ラインでのパス回しそのものは許容されていた。しかしこの第2レグでは、ボールホルダーとその周囲の受け手全てに1対1でプレッシャーをかけることで、最終ラインでのパス回しそのものを遮断し、GKへのバックパス(と、そこからのロングフィード)を強いるという、よりアグレッシブなアプローチが採られたのだ。
このやり方は、うまくはまれば相手のビルドアップを不可能にできるが、もしプレスを外されてカウンターを受ければ即失点につながりかねないリスクもはらんでいる。何しろ、相手はリオネル・メッシとルイス・スアレスを擁している。一発カウンターを許せば、それだけで一巻の終わりである。
しかし、逆転で勝ち上がるために必要な「3−0」というスコアをもぎ取るためには、リスクを承知でこの戦術を90分間、集中力を切らすことなく続けて押し切る以外に選択肢はない。これがディ・フランチェスコの判断だった。そしてローマは指揮官が選んだその戦術を完璧に遂行し、奇跡的な逆転勝利を手に入れた。
普段、ほとんど長いボールを蹴らないバルサのGKマルク・アンドレ・テア・シュテーゲンは27本ものロングパスを蹴らされ、しかもそのうち味方にボールがつながったのはたった4回にすぎなかった。
「バルセロナが厳しいプレッシャーを受けると困難に陥るのは、第1レグから分かっていた。しかし4−3−3システムでは足りないところがあると分かったので、今回は違うやり方を選んだ。システムと選手は変えたが、アグレッシブに前に出るというフィロソフィーは変えていない。3バックや5バックでは前に出るディフェンスはできないという人もいるが、今日はそれが可能だと証明できた。このチームにはそれをできる選手がそろっている。
今日、テア・シュテーゲンがどれだけ多くボールに触ったか。それはわれわれがバルセロナにそれを強いたからであり、このシステムが狙い通りに機能した結果だ。しかし重要なのはシステムではない。フィロソフィーだ。今日はそれをピッチ上で最後まで貫くことができた」(ディ・フランチェスコ監督)
海の家の管理人から気鋭の監督に
彼は35歳で現役を引退後、すぐに監督の道を目指したわけではなかった。引退してすぐ、ローマ時代のチームメートだったフランチェスコ・トッティ、そしてロゼッラ・センシ会長に請われてローマのチームマネジャーとなったが、「これは自分の仕事ではないと感じて」1年で辞任。サッカー界を離れて生まれ故郷のアブルッツォ州ペスカーラに戻り、実家である三つ星ホテルが経営する海の家の管理人として、第二の人生を歩み始めた。ディ・フランチェスコ自身、「毎朝トラクターでビーチの砂をならして、心晴れやかな日々を送っていた。セリエAの試合の結果にすら興味がなかった」と後に述懐している。
しかしその翌年、実家から近い小さな町にある4部リーグのクラブ(バル・ディ・サングロ)からチームの強化を手伝ってくれと声をかけられ、カルチョの世界に再び足を踏み入れる。この仕事はわずか半年あまりで辞することになったものの、これをきっかけに監督ライセンスのコースに通い始め、そこで初めて「監督という仕事の面白さに目覚めた」のだという。