川内優輝の海外挑戦を支え続けたカナダ人 プロ転向へ「彼の自由を守ることが大事」

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“最強の公務員ランナー”を支える陰の立役者

川内優輝の海外挑戦を長年サポートしてきたラーナーさんに、ボストンマラソン優勝を見届けた今の気持ちを聞いた 【スポーツナビ】

 川内優輝(埼玉県庁)は、122回の伝統を誇るボストンマラソン(16日、米国)を制した直後、歓喜の涙を浮かべながら優勝インタビューを受けていた。その隣で通訳を務めていたのは、カナダ人のブレット・ラーナーさん。涙をこらえながら誇れる勝者の一語一句を英語にして世界に届けた。

 川内がフィニッシュテープを切った直後、真っ先に駆け寄り、抱き合って喜びを分かち合った。

「半分くらい驚いたけど、半分くらいは間違いなく優勝するという気持ちがありました。かなりうれしいです。ボストンマラソンは世界一のマラソン大会で歴史もある。他のメジャー大会と比べて本当に価値があります」

 ラーナーさんは、日本代表としての派遣以外では海外初挑戦となる2012年のデュッセルドルフマラソンを始め、数多くの海外レースに帯同。大会主催者との交渉や、現地での食事などのアレンジ、通訳、メディア対応などをこなしてきた。実業団に所属せず、スタッフのいない“最強の公務員ランナー”の右腕となり、海外転戦を支えてきた陰の立役者だ。

 ボストンマラソンは世界最高峰の「ワールドマラソンメジャーズ」の6大会の1つで、世界のトップランナーが集う。成績を残せば影響力も大きい。ラーナーさんは米国で高校、大学と陸上に打ち込んでおり、市民ランナーとしてボストンマラソンを6度走った。「アップダウンの多いボストンであれば、川内に勝機はある」と、早くから出場を勧めてきた。

 川内が今回マークしていたのは、前回大会2位で、同3位の大迫傑も所属するエリート集団「ナイキオレゴンプロジェクト」のゲーレン・ラップ(米国)だった。12年ロンドン五輪では1万メートルで銀メダルを持つ屈指のスピードランナーで、「最後の10キロで同じ位置にいては勝てない」と緻密に作戦を練った。気温3度の風雨という“得意な”天気もあいまって、戦略がカチッとはまった。「序盤に速いペースで入ると勝てない」と言われる大会で、あえてスタートから飛び出し、力のない選手を振り落とす。ついて来られる選手には「速すぎるのでは」と精神的に揺さぶりをかける。難なくついて来れた選手でも、オーバーペースのツケが後半に来るはず。川内はそこで勝負を仕掛けて、最後に一気に抜く――。ラップを25キロで引き離し、先頭を走っていたジョフリー・キルイ(ケニア)もラスト2キロでかわした。描いていたとおりの展開に、「完璧なレースだった」とラーナーさんは手放しで褒めたたえた。

初めて見た時から“何か違う”

スタートから飛び出した川内。緻密に練った作戦がカチっとはまった 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 ラーナーさんは、大学1年で始めた箏を本格的に学ぶため、1997年に来日した。日本でも市民ランナーとして走り続け、07年に日本の長距離に関するニュースを英語で発信するブログ「Japan Running News」を始めた。趣味が高じて、現在は海外マラソン大会のPRや日本人選手のサポート、スポーツライターやテレビ解説など、仕事は多岐にわたる。
 川内との出会いは10年前、初マラソンを踏む前の08年にさかのぼる。ラーナーさんが仲間と都内のトラックで練習していた時、一人だけ飛びぬけて速い学生がいた。翌年の箱根駅伝を見ると、そのランナーが6区の山下りを果敢に走っていた。「この人だ!」。画面を見ると「川内優輝」と書いてあった。

 その頃、ブログをきっかけに海外の大会主催者から「日本人選手を紹介してくれないか」と相談されることが増えた。09年秋以降、ぜひ川内にと知人を介して何度か誘ったが、すべて見送りに。その後、3位に入った11年12月の福岡国際マラソン後、川内から突然電話があった。「ヨーロッパのマラソンに出たい」。そうして、12年4月のデュッセルドルフマラソンへの挑戦が決定。ここから2人のタッグは始まった。

「初めて見た時から『何か違う』と感じていました。今の川内みたいになるとは思っていませんでしたけどね。彼は考えることをストレートに口にする人。良い意味で普通のランナー。頑張っている仲間の市民ランナーと変わらない。その印象は今でも変わりません。スイッチを入れたら世界のトップ選手になる。それ以外は本当に普通ですね」

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