【KNOCK OUT】“怪物くん”鈴木博昭の目標は優勝のみ「“戦う1つの細胞”になれると確信」

長谷川亮

2連敗を喫した17年 全部を糧にして立ち上がる

2月のシュートボクシングでは周りの不安を断ち切る見事なKO勝利を飾った。この勢いのまま再びKNOCK OUTのリングに上がる 【(C)SHOOT BOXING】

――17年はホームリングで新星・海人選手に敗れ、初参戦したKNOCK OUTでも水落洋祐選手に敗れて連敗とキビしい1年になりました。

 初期の頃はシュートボクシングもヒジがあったのですが途中でヒジがなくなって、ずっとヒジなしルールでやってきて、それでKNOCK OUTに目標を定めて、去年からヒジありの試合をお願いしました。その結果、苦いこともありましたけど、去年の2回の負けがあったからこそ今度のトーナメントで勝ち上がる自分の姿が見えているし、もう自分の中で(ヒジありの戦いに)アジャストできています。

――苦い思いの昨年をへて、今年初戦の2月大会では山口侑馬選手にスタンディングチョークスリーパーを極め勝利しました。

 あの試合に関しては、いま強くて若い選手はたくさん育っていますけど、大会ラインナップを見た時、「この大会でシュートボクシングならではの勝利ができる選手って誰がいるんだ?」とふと思ったんです。じゃあ自分がシュートボクシングならではの勝利をしようと思って、狙っていった結果があれです。なのでケガもなかったし、まったくプラン通りです。

――連敗から脱し、嫌な流れを断ち切ることができたのでは?

 本当に「負けていい試合」なんて1つもないし、「負けてもいいや」なんていうことも1回もないんですけど、もう全部を糧にして立ち上がるエネルギーにするだけです。ヘコんでたりする暇なんて僕にはないというか。もちろん感情論もあるんでしょうけど、感情的に物事を考えたって自分の中でなんの解決にもなりませんし、「結果はどうなるか?」というところがあるので、次に結果を出すためそういう時は自分の反省点を冷静に判断します。

――そうは言っても人生を懸けて取り組み、戦っている訳ですから、昨年連敗を喫して落胆は大きかったのではないですか?

 負けたら落胆は正直ものすごくあります。「人生懸けて」と公言してやっているからこそヘコむんですけど、ヘコんで突っ伏しているヒマなんかないし、何か失敗した時に「ヘコんでました」と言ったって何か人生を進ませてくれるのかって。ヘコんでいるんだったらそれを立て直す力に変える、それが一番重要なんじゃないかと思ってます。それは格闘技を通じて得た、人生の真理かなとも思います。失敗したからって人生が終わるものじゃないでしょって。世の中のすごい人たちだってもっとデカい失敗をして、そこから成功を収めているし、本当にそれと一緒じゃないかと思ってます。

――では、昨年の2連敗を乗り越え逆にエネルギーに変え、今はさらに成長できている?

 ここ2カ月ぐらいはすごく自分の中でレベルアップしている実感があるので、あとは口で説明するより結果と内容で判断してもらいたいです。プロなので。自信のある自分は積み上げてこれたので、あとはもう本番が楽しみです。

対戦相手の大石と向き合って感じた印象

会見で向かいあった大石(左)と鈴木。大石に対して「実直な格闘家という感じ」と評価する 【スポーツナビ】

――対戦相手、大石選手の印象をお願いします。

 実直な格闘家という感じです。昔から知っていて、熱い良い選手だと思います。映像は試合が決まってから何試合か見て、そこからはあまり見ていません。ただ会見で1度向き合うことができたので、自分は1回向かい合えると、そこからたくさん感じるものがあるんです。それで十分かなっていつも思っています。

――実際に手合わせせず、向き合うだけでも分かるものがあるのですか?

 口で説明するのは難しいんですけど、実際の背格好を見られるのが僕の中では一番大きいです。人間は人によって身長体重が同じでも骨格が違ったりするので、そこを見られるのは大きいです。僕はいつもそうなんですけど、今回もいろいろなものを頭の中で巡らせながら見ていました。「こんな感じね」って、そういうセンサーがあるんです。そういう時、冷静に見られている場合は割といい時だと思います。無駄に変な自信がある時はそのセンサーが狂うんです。でも、今回は冷静に見ていました。やっぱり勝つためにはちゃんと判断しないといけないので。

――先ほど、負けた後の対処でも「冷静に判断する」という言葉がありましたが、いろいろな局面において感情的になるのではなく冷静に物事を見て、判断することが重要なのですね。

 重要ですね。特にあの2試合は、もちろん勝った選手が称賛されるべきですが、自分の中で曇っていた部分、落ち度がかなりありました。本当に落胆はあるんですけど、ただヘコむだけだったら小学生でもできるので(苦笑)。ヒジありを始めてからまだそんなに長くなかったし、それもあってよい負けというか、やられたっていうのは一番の勉強だったと思います。

――たしかに昨年からヒジありの戦いを再開してまだ日が浅いですから、そう考えるのは冷静な捉え方かもしれません。

 だからあそこでいろいろ知って今回があるので、僕はこのトーナメントへ向けていい流れができたと思っています。すごくいいタイミングです。それとメンタル的に楽しいのが僕の中で一番よい部分で、あとは本当に本番です。

――分かりました。では、よいタイミングと精神状態で迎えるトーナメント初戦へ向け、改めて意気込みをお願いします。

 本当にもう優勝だけを見て日常を過ごしていますが、まずは1回戦の大石選手にすべてを、シュートボクサーとして、今の自分を、今の人生をすべてぶつけたいと思います。その結果KNOCK OUTを観に来てくれるお客さんが楽しんくれると思います。もう本当に、ただ“戦う1つの細胞”になれると確信しています。

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著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

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