対談連載:トップランナーであり続けるために

緻密なエネルギー戦略で100kmを走り切る 金哲彦(マラソン解説者)×高田由基(ウルトラランナー)

東海林美佳
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提供:明治

マラソン解説者の金哲彦さん(左)とウルトラランナーの高田由基さんがウルトラマラソンをテーマに語り合った 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 トップアスリートとしてそれぞれの舞台で第一線を走り続ける人たちがいる。厳しい世界でなぜ彼らは光を放ち続けられるのか。スポーツナビでは、そんなアスリートたちの声を対談連載「トップランナーであり続けるために」で紹介する。

 第4回は、マラソン解説者として、また、市民ランナーの指導者として第一線で活躍する金哲彦さんと、100キロ世界選手権に6度出場し、日本トップクラスのウルトラランナーの高田由基さんが登場。フルマラソン以上の距離を走る、ウルトラマラソンの世界とはどのようなものなのか? その過酷な世界に挑むモチベーションと戦略とは? 2人に熱い“ウルトラ談義”を繰り広げてもらった。

「なんとか完走」から始まったウルトラへの挑戦

――高田さんはフルマラソンを走るより前に、さらに距離の長いウルトラマラソンデビューをしたそうですが、その理由は?

高田:「そこにウルトラマラソンがあったから」(笑)。大学の時は長距離種目を中心に陸上競技をやっていたのですが、卒業する前にフルマラソンを走りたいと思っていました。でも、いざ調べてみたらその時点でエントリーできるフルマラソンがなくて。それで、エントリーサイトでいろいろ検索してヒットしたのが「サロマ湖100キロウルトラマラソン」でした。

金:成り行きってこと?(笑)

高田:運命的な出会い? でしょうか(笑)。僕、出身が北海道なので、小さい頃から新聞にサロマ湖ウルトラマラソンのニュースが出ていて、それなりになじみもあったし、これも何かの縁だろうと思って走ることにしたんです。ただ、レース1カ月前に6時間走る練習をしたら、足を痛めてしまってあまり練習が積めなかった。本番前に痛みが消えたので走ったのですが、やはり途中で痛み出して、60キロぐらいからは歩くようにしてなんとか完走しました。

日本を代表するウルトラランナーの高田さんも、初ウルトラは相当つらいものだったという 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

金:相当つらい初ウルトラだったわけですね。

高田:後半はどんどん抜かれて、ゴールしたら足も2倍ぐらいに腫れて。病院に行ったら足の腱鞘炎だと言われました。「もうウルトラはいいや」と思ったのですが、3日たって「このままじゃ終われない。また挑戦しよう」という気持ちがふつふつと湧いてきました。

金:そして今日に至るというわけですね。僕も昨年9月にウルトラマラソンを走りました。「白山白川郷ウルトラマラソン」という大会です。なのでその話は他人事とは思えない。特にその時は暑くて過酷で、もう死ぬかと思いましたから。

高田:金さんが出演されているテレビ番組でその様子を拝見しました。それが初ウルトラですか?

金:いや、実は15年前、「ニッポンランナーズ」(※編注:金さんが理事長を務める総合型地域スポーツクラブ)を立ち上げた時に1度サロマ湖ウルトラマラソンを走ったことがあるんです。それが初ですね。市民ランナーの世界を知るためにも、自分で体験してみないといけないなと思って。

高田:自分で実際にやってみるところが金さんのすばらしいところですよね。だからテレビの解説を聞いていても説得力があるのだと思います。

金:やってみないと分かりませんからね。知識も必要ですけれど、本を読んだり人に教えてもらって理解できることなんてほんの少し。自分の体で起きることって、やはり自ら体験してこそだと思います。

ウルトラでは「70キロの壁」?

月1ペースでフルを走る金さん。ウルトラマラソンも過去2度、挑戦している 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

――フルマラソンでは「30キロの壁」という言葉が知られていますが、100キロの場合、そういった苦しさが一気に訪れるのはどのあたりでしょうか?

金:僕の場合は「80キロの壁」でした。1回目も今回もそうでしたけれど、80キロを過ぎるともう、どうしようもなくなってくるんです。足にマメができたとか、どこか痛いとかそういうことさえ超越したつらさ。もう、何をしても体が動かないというような感覚です。

高田:80キロまでいけたら強い。僕の感覚では70キロですね。力のある選手でも失速し始めるのがだいたいそのあたり。70キロ付近で歩くようなペースになっている人を何人も見てきました。

金:先頭の方はフルみたいに集団で走ったりすることはありますか?

高田:ありますね。僕の集団は1キロ4分を切るくらいのペースでしたが、20人くらいいました。少しずつ減っていって50キロ通過時に10人ぐらい、そして70キロあたりでさらに少数に絞られてくる。

金:フルだと数分離れたらもう勝負は決まるけれど、ウルトラの場合はどうですか? 10分離れても逆転することもあるのでしょうか?

高田:あります。だから、自分のペースで自分の走りをするというのが、僕の唯一にして最大の目標です。自分の走りができれば、前の集団が近づいてくると信じて走っています。

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著者プロフィール

ランニングとトライアスロンにハマってしまったフリーランスエディター。一般女性誌やライフスタイル誌、スポーツ誌など幅広いジャンルを手がける。アイアンマンハワイをはじめ、海外レース、海外選手の取材多数。

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