「平成の怪物」が演じた粘りの96球 笑顔なし降板も感じさせた復活の予感

ベースボール・タイムズ

550日ぶり登板、落ち着き払ったマウンドさばき

550日ぶりの公式戦マウンドに立った松坂 【写真は共同】

 2018年4月5日――。ついに平成の怪物、松坂大輔が1軍の公式戦のマウンドに帰ってきた。福岡ソフトバンクに在籍していた16年10月2日、東北楽天戦以来、実に550日もの月日が流れていた。その時は1イニングを3安打4四死球の5失点と、かつての輝きは見る影もなかったが、ドラゴンズブルーのユニホームを身にまとったこの日の移籍後初登板は、まったくの別物だった。

 初回の失点も、決して打ちこまれたものではない。巨人の先頭打者・立岡宗一郎の打球は飛んだコースが悪く内野安打。3番・坂本勇人には慎重に攻めた上での四球。続くゲレーロにはレフト前に運ばれて1点を失ったが、後続のマギーを高めのストレート、岡本和真を外角低めのカットボールで2者連続の空振り三振に仕留めた。

 3回表も同様。先頭打者・吉川尚輝が放ったショートとセンターの中間に飛んだフライが二塁打になると、坂本の詰まった打球もファースト後方のライト線に落ちた。ゲレーロに四球を与えて無死満塁。ここで1点は献上したもののマギーをショートゴロによる併殺とした。続く岡本にはショートゴロを打たせたが、京田陽太の悪送球で三塁走者が生還して3失点目。味方の失策や不運の当たりが重なっての失点だった。

 それでも松坂は落胆の色を見せることもなければ、落ち着き払ったマウンドさばきで、顔色など何一つ変えることはなかった。なおも続く2死二塁のピンチで亀井善行をキャッチャーファウルフライに仕留めると、4回表の1死二、三塁の場面では吉川尚を127キロのチェンジアップで空振り三振、続く坂本はカウント1ストライクからの2球目をピッチャーゴロ。5回表も2死一、三塁と得点圏に走者を背負ったが、大城卓三をライトフライに打ち取った。

5回3失点の粘投も「悔しさしかない」

 直後の5回裏に先頭打者で打席が回ってきたところで代打が告げられ降板。中日に移籍初登板の結果は、5イニングで打者26人に対して計96球を投じ、8安打5奪三振3四球の3失点で、黒星を喫したものの自責は2点。ここまでチームの若手先発投手が見せられなかった瀬戸際で踏ん張る粘りの投球を披露した。だが、試合後の松坂は終始険しい雰囲気を漂わせていた。

「今の心境? チームを勝ちにつなげられなかったという悔しさしかないですね。ランナーを出してもホームにはかえさないように何とか粘れればとは思っていましたが、それもできなかったですし……。もう少しうまく抑えて長いイニングを投げたかったです」

 敗戦によって湧きあがる悔しさ。今年の1月下旬に入団テストで合格を得ると、注目を一身に集めながらキャンプを無事に完走。右肩の故障を乗り越えてたどり着いた復帰登板も、勝利なくして達成感は得られなかった。だがそれでも、自身のピッチングには納得できる部分も多かった。“手応えアリ”の復活登板だったことは間違いない。

「いいボールも悪いボールもありましたけど、全体的には悪くなかったと思います。ピンチの場面では三振を取るのが理想なので、結果として(初回は)2人から取れたのは良かった」

 帰りの車に向かう松坂はこれまでと同じく言葉を選びながら、ときに時間をかけて偽りのない心境を表していた。その表情は苛立ちや後悔とは異なる、直視した現実を受け入れて前に進む力強さとでもいうべきか。課題と同時にたしかな手応えを得たに違いない。ほぼ同じ結果だったオープン戦の最終登板とこの試合では、明らかにピンチを迎えてからの投球が違っていたからだ。

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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