「平成の怪物」が演じた粘りの96球 笑顔なし降板も感じさせた復活の予感
550日ぶり登板、落ち着き払ったマウンドさばき
550日ぶりの公式戦マウンドに立った松坂 【写真は共同】
初回の失点も、決して打ちこまれたものではない。巨人の先頭打者・立岡宗一郎の打球は飛んだコースが悪く内野安打。3番・坂本勇人には慎重に攻めた上での四球。続くゲレーロにはレフト前に運ばれて1点を失ったが、後続のマギーを高めのストレート、岡本和真を外角低めのカットボールで2者連続の空振り三振に仕留めた。
3回表も同様。先頭打者・吉川尚輝が放ったショートとセンターの中間に飛んだフライが二塁打になると、坂本の詰まった打球もファースト後方のライト線に落ちた。ゲレーロに四球を与えて無死満塁。ここで1点は献上したもののマギーをショートゴロによる併殺とした。続く岡本にはショートゴロを打たせたが、京田陽太の悪送球で三塁走者が生還して3失点目。味方の失策や不運の当たりが重なっての失点だった。
それでも松坂は落胆の色を見せることもなければ、落ち着き払ったマウンドさばきで、顔色など何一つ変えることはなかった。なおも続く2死二塁のピンチで亀井善行をキャッチャーファウルフライに仕留めると、4回表の1死二、三塁の場面では吉川尚を127キロのチェンジアップで空振り三振、続く坂本はカウント1ストライクからの2球目をピッチャーゴロ。5回表も2死一、三塁と得点圏に走者を背負ったが、大城卓三をライトフライに打ち取った。
5回3失点の粘投も「悔しさしかない」
「今の心境? チームを勝ちにつなげられなかったという悔しさしかないですね。ランナーを出してもホームにはかえさないように何とか粘れればとは思っていましたが、それもできなかったですし……。もう少しうまく抑えて長いイニングを投げたかったです」
敗戦によって湧きあがる悔しさ。今年の1月下旬に入団テストで合格を得ると、注目を一身に集めながらキャンプを無事に完走。右肩の故障を乗り越えてたどり着いた復帰登板も、勝利なくして達成感は得られなかった。だがそれでも、自身のピッチングには納得できる部分も多かった。“手応えアリ”の復活登板だったことは間違いない。
「いいボールも悪いボールもありましたけど、全体的には悪くなかったと思います。ピンチの場面では三振を取るのが理想なので、結果として(初回は)2人から取れたのは良かった」
帰りの車に向かう松坂はこれまでと同じく言葉を選びながら、ときに時間をかけて偽りのない心境を表していた。その表情は苛立ちや後悔とは異なる、直視した現実を受け入れて前に進む力強さとでもいうべきか。課題と同時にたしかな手応えを得たに違いない。ほぼ同じ結果だったオープン戦の最終登板とこの試合では、明らかにピンチを迎えてからの投球が違っていたからだ。