自己防衛と責任転嫁ばかりのモウリーニョ ダービーマッチでプライドを見せられるか

田嶋コウスケ

スペシャル・ワン、記者の前で“独演会”

CLベスト16敗退で批判を浴びた直後、会見でモウリーニョは12分30秒の“独演会” 【Getty Images】

 メディアの前でムキになって熱弁を振るうマンチェスター・ユナイテッドのジョゼ・モウリーニョ監督の姿を見て、思わず首をひねってしまった。

 現地時間3月13日に行われたセビージャとのチャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦第2戦に敗れ、ポルトガル人指揮官には批判の声が殺到している。クラブ予算でユナイテッドを大幅に下回るセビージャ相手に敗退し、ファンやメディアに激しく非難されたのだ。

 その試合の3日後に行われた定例会見──。「俺はまだ生きている。ここにいるぞ」と記者団に言って着席すると、事前に用意したメモを読み上げながら語り始めた。質問をほとんど受け付けず、ひたすらしゃべり続けたその会見は、さながら“独演会”のよう。時間にして12分30秒にも及んだ。以下は、異例となった反論会見の要約である。

・マンチェスター・Uは、2008年を最後にCLで優勝していない。

・過去7年、マンチェスター・Uでは4人の異なる人物(アレックス・ファーガソン、デイビッド・モイーズ、ルイス・ファン・ハール、モウリーニョ)が監督を務めている。この間、1回(14−15シーズン)は欧州の舞台にすら行けなかった。グループステージ敗退が2回で、最高成績はベスト8でしかない。

・プレミアリーグでも、最後の優勝は12−13シーズン。それ以降は、7位→4位→5位→6位と低迷している。最高成績は4位。それが、自分が引き継いだ「負の遺産」である。

・一方、国内リーグでのマンチェスター・Cは、過去7年間で2回もプレミア王者となり、2位も2回ある。最低順位は、ユナイテッドにとって最高順位の4位。これはシティにとって「プラスの遺産」である。

 たしかに、モウリーニョの説明は間違ってはいない。ファーガソンが勇退した13年以降、マンチェスター・Uは停滞が続いている。モウリーニョの就任前には、モイーズとファン・ハールの2人が指揮を執り、彼らはそれぞれ巨額資金をかけて選手補強を行った。同時に、監督が代わるごとに人員整理も行っている。要するに、監督交代のたびにチームの再編成と破壊を繰り返してきた。

 それゆえ、モウリーニョとしては、路頭をさまようチームを引き継いだ上に、選手編成についても自分の希望が完全に反映されていないと、そう説明したかったのだろう。しかも今季、2位ユナイテッドに16ポイント差をつけて首位を独走しているシティを比較対象とすることで、自らの苦しい立場を明確にしようとしたのだ。

「奇妙な会見」はモウリーニョの保身?

今シーズン、モウリーニョの肝いりで獲得したルカク(右)とサンチェス(左) 【Getty Images】

 ところが、モウリーニョの説明だけでは納得できない側面もある。16年夏に就任して以降、モウリーニョもまた2シーズンで莫大な資金を投下し、着々とチームを強化してきたからだ。

 就任1年目はMFポール・ポグバ、MFヘンリク・ムヒタリアン、DFエリック・バイリー、FWズラタン・イブラヒモビッチの4選手を獲得。ポグバ1人に8900万ポンド(約133億7000万円)の巨費をかけたかと思えば、2季目となる今シーズンも、FWロメル・ルカク、MFネマニャ・マティッチ、DFビクトル・リンデロフ、FWアレクシス・サンチェスの4選手を獲得している。

 移籍金の総額は、しめて3億ポンド(約450億6000万円)。これだけの軍資金を湯水のごとく使えば、メディアやサポーターが期待しない方がおかしい。“名門”マンチェスター・Uのブランドや、世界中に広がるサポーターの数を考えれば、当然のことである。それは、ビッグクラブの宿命と言ってもいい。

 加えて、モウリーニョ体制のパフォーマンスも「退屈極まりない」「守備的すぎる」との意見が多い。自陣深くで守備を固める戦術で、ポグバやサンチェスといった世界的名手の才能を生かし切れていない現状を踏まえれば、サポーターがフラストレーションを溜め込むのは自然な流れだろう。

 とはいえ、在任2シーズン目のモウリーニョの成績は、決して悲観するものでもない。CLではベスト16で姿を消したが、プレミアでは2位につけ、FAカップでも4強まで勝ち進んでいる。昨シーズンは、ヨーロッパリーグ、リーグカップ、コミュニティシールドと3つのタイトルを獲得した。にもかかわらず、モウリーニョは例の釈明会見を行ったのだ。

 冒頭で「首をひねった」と記したのは、先述のモウリーニョの会見が、マンチェスター・Uを何年も追いかける番記者たちの前で行われた点だ。もちろん、行く先々でクラブをリーグ優勝に導き、ポルトとインテルで2度のCL制覇も経験しているモウリーニョの実績を、彼らは知り尽くしている。さらに、テレビカメラの向こう側にいるのは、近年のマンチェスター・Uの苦戦を痛いほど知るサポーターたち。記者もサポーターも、モウリーニョが声を上げる以前から状況を把握できている。その上で、批判の声を上げているのだ。

 だからこそ、モウリーニョは誰のために、何を訴えているのかが分からなかった。英BBC放送のサイモン・ストーン記者が「極めて奇妙だった。今後数十年にわたり、記憶に残る会見」と記したように、筆者にもモウリーニョの言葉は「自己防衛」「責任転嫁」にしか聞こえなかった。

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著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

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