ガラタサライの躍動感を体現する長友佑都 「ここのサッカーはめちゃくちゃ楽しい」

元川悦子

長友加入で勢いづいたガラタサライ

長友の加入で勢いづいたガラタサライが次に目指すのは、やはりタイトルの獲得だろう 【Getty Images】

 結果、長友の加入によりガラタサライの失点は劇的に減った。加入前はリーグ19試合の総失点が25だったにもかかわらず、その後8試合の総失点はわずかに4。守備面の改善は目覚ましいものがある。総得点に関しても、43から63へと20ゴールも増えている。「長友が来て攻守両面でチームがよくなっている」という評価は、数字の面でも明確に表れているのだ。

 最高の補強で攻守のバランスが劇的に上向いた今のガラタサライが目指すのは、やはりタイトルだ。2000年のUEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)制覇を皮切りに、欧州ビッグクラブの1つに数えられるようになった彼らにとって、直近2年間は非常に苦しい時期だった。

 というのも、16年3月、UEFA(欧州サッカー連盟)からファイナンシャルフェアプレー違反による2シーズン(昨季と今季)の欧州カップ戦出場停止処分を課せられたからだ。一昨季の15−16シーズンに在籍したルーカス・ポドルスキ(現ヴィッセル神戸)やスナイデルといったスター選手をコスト削減のために放出しなければならなくなり、昨季はリーグで4位、カップ戦でもベスト16止まりというふがいない結果に終わった。

 それでも今季は開幕から上位につけ、後半戦に入ってからはほぼ首位をキープしている。27試合終了時点では、ガラタサライが勝ち点57で1位、イスタンブール・バシャクシェヒルが同56で2位、ベシクタシュが同53で3位、フェネルバフチェが同51で4位。もともとのイスタンブール3強に、与党「AKB」の支援によって近年、急成長している市役所母体クラブのバシャクシェヒルが加わって、優勝争いはイスタンブール4チームに絞られたと言っていい状況だ。

 リーグ戦は残り7試合。ガラタサライは今月、バシャクシェヒル戦、ベシクタシュ戦と上位直接対決を控えている。この山場を乗り切らなければ、来季のチャンピオンズリーグ(CL)復帰は見えてこない。トルコの場合、優勝チームだけがCL本戦にストレートインができ、2位は予備戦からになる。長友自身もCL本戦出場権を得られれば、完全移籍に大きく傾くのではないか。実際、インテルはルチアーノ・スパレッティ体制継続が有力視されているだけに、ガラタサライに残った方がメリットが大きいようにも感じられる。

「残留? そればっかりは分からないけど、僕はしっかり準備して、どこに行っても輝けるような準備をするだけ。シンプルですね」

 本人はそう語り、来季以降の身の振り方については明言を避けた。だが、トルコという国とサッカー、ガラタサライというクラブを非常にポジティブに捉えているのは間違いない。

サッカーに対しての熱はイタリア以上

「ここのサッカーはめちゃくちゃ楽しい」と長友。ガラタサライでのプレーに充実感を感じている 【元川悦子】

「トルコは親日国と言われていますけれど、ホントに人が優しいですね。サッカーのレベルに関しては、戦術面や個人的な部分で言えばイタリアの方が高いけど、こっちは身体能力の高いアフリカ系の選手も多いので、難しさはあります。それにスタジアムの雰囲気が尋常じゃない。フェネルバフチェとアウェーでやった時なんかは殺気立っていた。イタリア以上のサッカーに対しての熱があるから、やっている選手は間違いなくタフになりますね。

 そんな中、今のガラタサライのサッカーは躍動感に満ち溢れている。それは選手みんなが自分を堂々と出しているから。トラブゾンスポル戦で先制したフェグリ、自分の前の左MFにいる(ガリー・)ロドリゲスもそうだけど、ミスを怖がらずにガンガンいく。テリム監督もめちゃくちゃアグレッシブだし、ホントにやっていて面白いですね」

 長友は、あらためて充実感を口にした。躍動感あるサッカーでトルコ制覇を果たし、その勢いと自信を18年ワールドカップロシア大会に挑む日本代表に持ち込んでくれれば、それは理想的なシナリオになる。長友自身も、どうしたらそれができるかを真剣に考えている様子だ。

「ここのサッカーがめちゃくちゃ楽しいからこそ、代表で感じているもののギャップが正直、すごくありますね。今は全然みんな楽しそうじゃない。イキイキしていないことが僕自身、一番歯がゆいし、いいチームにはなっていかないと思うんです。1人が恐怖を持つと、そういう空気はチームに伝染していくものですからね。そうならないように、みんながある程度は自分の本能的な部分でやった方がいい。僕はそう感じます」

 トルコという地で新たな経験値を積み重ねている百戦錬磨の男の言葉は重い。日本代表、日本サッカーを前向きな方向に変化させるべく、日本屈指の左SB・長友佑都には「怖がらず、果敢に挑み続ける姿」を率先して示してほしい。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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