2試合で見えなかった日本本来の強み 「迷った時に立ち返る場所」はどこか?

宇都宮徹壱

本田の交代は予定通りか、それとも

右サイドでタメを作っていた本田は後半19分に交代 【Getty Images】

 日本が最初にヒヤリをさせられたのは、前半16分であった。右に展開したベセディンがクロスを供給すると、これが酒井のももに当たって川島が守るゴールのバーを直撃。即座に酒井自らがクリアして事なきを得た。しかし4分後の21分、ウクライナは右サイドでのパス交換から中央にボールを戻し、センターバックのヤロスラフ・ラキツキーがフリーの状態から左足で思い切りシュートを放つ。弾道はペナルティーエリア内にいた植田の頭に当たり、そのままゴールイン。日本にとっては、いささかアンラッキーな形でウクライナが先制した(記録はオウンゴール)。

 しかし、日本も負けてはいない。反撃の突破口を開いたのは、左サイドから強引なドリブルを仕掛けていた原口だった。アタッキングサード手前で倒されて、FKを獲得。キッカーの柴崎は、短い助走から山なりのボールを供給し、後方から走り込んできた槙野が高い打点で反応する。ウクライナの守備陣は、本田と杉本の動きに気を取られていたため、槙野は完全にノーマークだった。ゴールを確認した槙野は、すぐさまボールを取り出し、それから気迫のガッツポーズを見せる。 前半は1−1で終了。

 後半、日本は11分に杉本に代えて小林悠が、さらに19分には本田を下げて久保裕也がピッチに送り込まれる。いずれも予定どおりの交代に見えるが、気になるのが試合後のハリルホジッチ監督のこのコメント。「今日は引いてもらう動き、相手ゴールに背を向けた動きが多すぎた。そういった面も変えていかないと本大会ではうまくいかない」──。名指しこそしていないが、下がって受けることでタメを作り、時にサイドバック(SB)の上がりを促していたのは本田であった。長友は「助かった」と語っているが、指揮官の評価は違っていたようだ。ただし、それが交代の直接的な理由だったのかは不明である。

 ウクライナが勝ち越しゴールを挙げたのは、本田が退いてから5分後の後半24分であった。スピーディーなドリブルを駆使して、コノプリャンカがペナルティーエリアに侵入。対応した酒井を抜き去り、さらに山口のスライディングもかわして中央にクロスを送る。後方から走り込んできたのは、途中出場のオレクサンダル・カラバエフ。完全にフリーの状態で、ワントラップ後に右足から放たれたライナー性のシュートは、日本のゴール左隅に見事に収まった。対する日本も、後半34分に投入された中島翔哉がたびたび惜しい場面を作るも、ネットを揺らすには至らず。結局、2−1でウクライナが勝利した。

ポジティブな面もゼロではなかったが……

中島が存在感を示すなどポジティブな面もあったが、日本は多くの不安要素を露呈した 【Getty Images】

 すべての作業を終えて、会場のスタッド・モーリス・デュフランを出ると、外は冷たい小雨が降り続いていた。1週間以上にわたるリエージュでの取材も今日で終わり。中心街に戻るバスを待つ間、今回の欧州遠征の意義について、あらためて考えてみた。W杯の熱狂からは程遠い、閑散としたスタジアムで行われた今回のマリ戦とウクライナ戦。結果として日本は、1勝もできずに解散することとなったわけだが、それでもポジティブな面は決してゼロではなかったと思う。

 第一に挙げたいのは、初招集の中島が存在感を示したことだ。マリ戦では後半15分に代表デビューを果たすと、アディショナルタイムに初ゴール。今回のウクライナ戦でも、わずか11分(+アディショナルタイム5分)でチーム最多となる3本のシュート(枠内は2本)を放って追い上げムードを演出した。また、吉田麻也不在のディフェンスラインも、昌子を中心に槙野と植田である程度回していける目処(めど)が立った。さらに柴崎と大島が、それぞれ持ち味を出したことも収穫。大島は、マリ戦で負傷交代したことが惜しまれるが、ぜひとも代表での復活を期したいところだ。

 一方で、今の日本代表が不安要素に事欠かないのも事実(とりわけSBの層の薄さは、かなり深刻である)。もっとも、ハリルホジッチ監督の采配については、実はあまり心配していない。4年前に率いたアルジェリア代表のように、対戦相手の弱点を効果的に突くノウハウを持っているのが、この人の一番の強みである(日本サッカー協会も、その点を評価したからこそ三顧の礼をもって代表監督に迎えたはずだ)。むしろ気になったのが、この2試合で「日本本来の強み」がまったく感じられなかったことである。ウクライナと比べると分かりやすい。たとえポゼッションサッカーに舵(かじ)を切っても、彼ら本来の強み(縦へのスピードや正確な技術など)は、やはり健在であった。

 チームワーク、俊敏性、あるいは勤勉さ──。それら日本本来の強みは、今回の合宿中に本田が口にした「迷った時に立ち返る場所」という言葉に置き換えてもいいだろう。思えば現在の日本代表は、ザッケローニ時代のキーワードであった「自分たちのサッカー」からの脱却が起点となっている。とはいえ、日本が本来持っていた強みさえも否定するべきではない。W杯が「ナショナルチーム同士が競い合う大会」であるならば、日本もまた他国がまねできない武器を再認識すべきだ。今回の欧州遠征が、その契機となることを願ってやまない。

2/2ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント