W杯開催地で調整を行わない日本代表 マリ戦で求められるは久々の快勝

宇都宮徹壱

合宿地がベルギーであることの是非

古巣のスタジアムに帰ってきた川島。顔なじみのスタッフと再会を喜び合っていた 【宇都宮徹壱】

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いる日本代表が、ベルギーはリエージュにて合宿をスタートさせたのは3月19日のこと。くしくもちょうど3カ月後の6月19日は、ワールドカップ(W杯)での日本の初戦、対コロンビア戦がロシアのサランスクで行われる。「2018年が明けた」と思ったら、すでに3月も後半の卒業式シーズン。きっとこのまま、怒とうのように月日が過ぎ去り、われわれは運命の初戦を迎えることだろう。それだけに、このリエージュで行われる国際親善試合2試合──すなわち、3月23日のマリ戦と27日のウクライナ戦は、非常に重要な意味を持つ。

 リエージュに到着したのは、マリ戦の2日前。フランクフルトから鉄道で2時間かけて、リエージュ=ギユマン駅に降り立つ。ガラスとスチールとコンクリートを素材として、豊かなアーチを表現したモダンな駅舎。しかし周辺は、静かで小ぢんまりとした古都という印象だ。ベルギーという国は、フランデレン地域、ワロン地域、そしてブリュッセル首都圏からなる連邦制となっており、リエージュはフランス語が主体のワロン地域に属する。国内第5の都市で、人口は20万人弱。日本代表の欧州遠征では、2つの都市を移動しながら行われるのがここ数年の通例となっているが、今回はリエージュで2試合が行われる。

 それにしても、久しぶりにヨーロッパにやって来たというのに、なかなか代表モードに頭も気持ちも切り替えられない。理由は明らかで、代表戦がしばらくなかったからだ。最後に代表のコラムを書いたのは、昨年12月16日のEAFF E−1サッカー選手権の韓国戦(1−4)。ただし、この時は国内組のテストの場であった。フルメンバーで最後に取材したのは、4カ月前のベルギー戦(現地時間11月14日/0−1)までさかのぼらなければならない。ブラジルとベルギーに力負けした11月のシリーズ。あの悔しさをリアルに思い出すには、いささか時間が経ちすぎたように感じる。当の選手たちは、どう捉えているのだろうか。

 実はもうひとつ、今回の欧州遠征について、ある疑問を拭えずにいた。なぜ、合宿地がベルギーだったのか──。欧州組が集まりやすい、というのは理解できる。しかしながら、W杯が開催されるのはベルギーではなくロシアだ。6月の親善試合も、スイスとオーストリアで行われることが発表された。ということは、日本はぶっつけ本番でロシアでの戦いに挑むことになる。日本は昨年、コンフェデレーションズカップには出場していない。ウクライナ戦は政治的な理由で難しいとしても、せめてマリ戦だけはロシアのどこかで行われるべきではなかったか。この判断は、果たして吉と出るのか、いささか気になるところだ。

テンションが高い指揮官と「勝ち」を求める選手たち

前日会見でのハリルホジッチ監督。この日、受け付けた質問は2つだけにとどまった 【宇都宮徹壱】

 マリ戦前日の22日、リエージュは小雨模様の肌寒い一日だった。気温は平均で4度。間もなく4月ということで、間違いなく日は長くなっている。それでも、上空にたちこめる雲は手に届きそうなくらい低く、露出した指がかじかむくらい寒い。雨露と寒さに耐えながら、スタジアム行きのバスを待った。

 この日、前日練習と会見が行われたのは、試合会場のスタッド・モーリス・デュフラン。1898年設立のベルギーの名門、スタンダール・リエージュのホームスタジアムである。このクラブには一時期、3人の日本人選手が同時に在籍していたが、最もよく知られているのは川島永嗣であろう(あとの2人は永井謙佑と小野裕二)。この日のトレーニングの直前、日本の守護神は古巣のスタッフの姿を見つけると、笑顔で駆け寄って再会を喜び合っていた。

 マリ戦前日のトピックスをひとつ挙げるならば、やはりハリルホジッチ監督の前日会見だろう。18分に及ぶ会見で、受け付けた質問は2つだけ。確かに2つ目の質問は、本大会で対戦するセネガル戦の戦術にかかわるものだったので、はぐらかす必要があったのは理解できる。だが、軽くいなして次の質問を受け付ければいいものを、そこから一気に独演会になってしまった。もっとも、指揮官の本音が端々に露呈していたのは収穫だったかもしれない。

 いわく「W杯本大会直前の合宿がスタートする、5月20日までにはできるだけ多くの(選手の)情報を持っておきたい」。いわく「われわれはグループ突破の候補ではないが、その候補が常に勝つわけではない。われわれが偉業を成し遂げる準備をしないといけない」。いわく「私が厳しい要求をしているのではなく、W杯本大会が厳しい要求をしているのだ」。これらの言葉の根底にあるのが、焦りなのか、それとも自信なのか。いずれにせよ、やたらとテンションが高かったことだけは確かだ。

 一方の選手はというと、練習後のミックスゾーンでは「勝ちグセをつけたい」というコメントがたびたび聞かれた。思えば、11月の欧州遠征は(相手がブラジルとベルギーだったとはいえ)2連敗。そしてE−1選手権の韓国戦も1−4と大敗している。代表戦での快勝といえば、W杯予選突破を決めた、昨年8月31日のオーストラリア戦まで、時計の針を戻さなければならない。主力不在のマリが「仮想セネガル」となり得るかという疑念はあるが、まずは久々のフレンドリーマッチで快勝すること。それが、リエージュでの第1戦では求められよう。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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