大谷の速球、重要なのは高低よりもコース スプリング・トレーニングリポート(5)

データスタジアム金沢慧

本塁打にされたコース、三振を奪ったコースを検証

 ここからは、大谷のストレートを「本塁打を打たれた投球」と「空振りを奪った投球」に限定して見てみよう。

【画像提供:データスタジアム】

 今のところ、本塁打を打たれたゾーンは真ん中から内角へのストレートであり、外角は1本も打たれていない。また、空振りを奪っているゾーンは外角や高めのボールゾーンが目立っている。

 エンゼルスのマイク・ソーシア監督やビリー・エプラーGMからは、大谷について「メディアの報じる一般的な成績とは違う観点で評価している」という旨のコメントが出てくるが、外角へのストレートで空振りが取れている点は、評価ポイントになっているはずだ。

 スプリング・トレーニングでのストレートの奪空振り率15.8%は、マイナークラスの相手が多いとはいえ日本時代のどのシーズンよりも高い。ファンが期待するような結果は残せていないが、首脳陣が評価したくなる「大器の片鱗」はここまでの登板でも見せている。

 大谷にとって、まずは「ストレートを外角ストライクゾーンに投げきれるか」という課題をクリアすることが、メジャーリーグの舞台に立ち続ける上で必要な条件だろう。

 ただし、そのためには日本時代の自分を大きく超えていかなければならない。

【画像提供:データスタジアム】

 上の表は、大谷のストレートの逆球率を表している。逆球とは、捕手の構えと反対のコースへの投球(内角に構えて外角へ、もしくは外角に構えて内角へ)を意味しているが、大谷のストレートは逆球になることが多い。例えば、17年はストレートの17.1%が逆球で、これはパ・リーグでワーストの数字だった。スプリング・トレーニングでの20.2%も日本時代と似た数字であり、本来の能力に比べて高すぎるというほどではない。現状の制球力は「このくらい」と考える方が自然だ。

まずは自身で納得行く速球の追求を

 適度に荒れる剛速球は打者にとって的を絞りづらい効果を生むため、逆球は日本時代なら必ずしも悪いとはいえなかった。ただ、外角を狙って内角に入ると一発を浴びる危険が高いメジャーリーグでは改善させたいポイントだ。

 16日は試合直前のキャッチボールで大谷の投げた球がすっぽ抜け、スタンドに飛び込む場面もあった。ファーストミットをはめていた観客がナイスキャッチしたため事なきを得たが、ひやりとしたシーンだった。キャッチボールでの暴投はさすがに1球だけだったが、球が抜ける傾向は常に見られていた。まだフォームが固まっておらず、ストレートを制御できる状況ではなさそうだが、自身の理想とする投球フォームが完成した際にはどのような精度でストレートをコントロールできるのか楽しみだ。

 ここまで、大谷はツーシームやカットボールへの挑戦をしていない。「速いけれど、きれいな球筋で捉えやすい」と打者に評されることもあるが、それが大谷のストレートである。

「160キロのストレートを外角に投げきって、抑える。」

 速球の種類を増やす、または球質を変えるという手段ではなく、気が済むまでは自分のアイディティティであるストレートの精度アップに専念する。二刀流という新たな地平を切り拓いてきた若きパイオニアには、そのくらいの頑固な姿勢があってもいいだろう。

 実際、現代の野球では投球の軌道だけでなく、試合中の投球動作のデータも収集でき始めており、投手が球を変化させるための方法論は確立されつつある。動く速球は本人が必要性を自覚した後からでも挑戦し、会得できるものなので、まずは自身の持つポテンシャルを最大限に追求する方向で試行錯誤をして欲しいところだ。

 それはまさしく、今投げているストレートの球速を上げて、狙ったところに投げきる能力の向上にほかならない。

※データはデータスタジアム(株)の収集データ、およびStatcastのデータを使用

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著者プロフィール

データスタジアム株式会社 フェロー 主にプロ野球各球団でのデータ活用のサポートやメディア出演多数。 NHK「ワールドスポーツMLB」、「球辞苑」やAbemaTVのプロ野球中継でデータ解説役として出演。

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