久光製薬を強くした2度の敗北 Vファイナルで見せた圧巻のチーム力

田中夕子

石井「あのタイミングで負けてよかった」

MVPを獲得した石井は、ファイナル6のJT戦について「あのタイミングで負けてよかった」と語る 【写真:坂本清】

 年末年始のリーグ休止期間は、露呈した課題を克服すべく、オフェンスに磨きをかけた。一段階ギアを上げ、その結果、年明けからの3レグもすべて勝利したのだが、最後の最後、1位通過を狙ったファイナル6で今度はJTにストレート負け。皇后杯と同様に相手のサーブ戦術が上回ったことも一因だが、酒井新悟監督が「サイドが完璧に封じられ、今まで崩れなかったところも崩された」と言うように、サーブで狙われ、ブロック&ディフェンスで石井が封じられたことが敗因につながった。

 石井自身は「まずレセプションに集中しようと思って臨んだ」と言うが、ファイナル6の翌週に行われたファイナル3では、オフェンス面に変化が見られた。レギュラーラウンドでは新鍋がサーブをレシーブした後、そのまま攻撃に入るパターンはほとんどない。その裏をかく形で、あえて新鍋の打数を増やした。アキンラデウォが打つと見せかけ、相手のマークがミドルに集まっている中、1枚ブロックやノーブロックの状況で新鍋を使う。本数の割合から見れば、さほど新鍋の打数は多くないのだが、これまで対戦してきた記憶やデータは色濃く、「この状況では“ない”」と思っていた攻撃が通れば、「次も打ってくるかもしれない」と相手のディフェンスに迷いが生まれる。今度はレフトが手薄になり、両サイドが機能すれば今度はミドルが生きる。

 誰かを生かすのではなく、全体を生かす。その結果、ファイナル3以降、特に高いスパイク決定率を残した石井が言った。

「先週のファイナル3から、柔らかいボールをもらって、自分の打点で打ち分けられるように、少しトスを高くしてもらいました。ファイナル6でJTに負けたことが自分自身も見直すきっかけになった。あのタイミングで負けてよかったと今は本当に思います」

厚い選手層がチーム力向上につながる

酒井監督が「大きく成長してくれた」と語るリベロの戸江(赤) 【写真:坂本清】

 全日本の選手も多く、ベンチに目を向けても、もう1チーム作れるのではないかと思うほど選手層は厚い。勝って当然と見る目も少なくはないが、裏を返せばそれだけコートに立つことすら難しい状況でポジション争いを繰り広げることが個々のレベルアップにつながり、チーム力向上につながったのも間違いない。

 中でも今季、酒井監督が「技術の面でも選手としても大きく成長してくれた」と称するのがリベロの戸江真奈だ。レギュラーラウンドの序盤は、戸江が自チームのサーブ時、筒井さやかがレセプション時と、2人のリベロが交代で投入されていたが、3レグからはほぼ戸江が1人でリベロとしてコートに立ち続けた。もともとセッターがレシーブした後の二段トスなど、つなぎのプレーに定評があったが、今季はアキンラデウォの加入で本格的にチームもリードブロックを取り入れ、トータルディフェンス構築の一役を担った。

 昨シーズンまでは「いけるボールは全部取りにいかなきゃいけないと思っていた」と言う戸江は、今季は意識の根本が変わったと言う。

「抜かせるコースをきちんと徹底しただけではなくて、今までだったら『ここに打たれたら仕方ない』というボールもリードブロックでタッチを取ってくれるので、自分がぴょこぴょこ動いてしまうのではなくて、強打が来る場所で待って、タッチボールを追いかけてつなぐ。全員がレシーブのうまい、ディフェンスができる選手ばかりなので、私がミスしないようにと思って必死でやっていました」

「やはり久光製薬は強かった」。そう感じさせた決勝戦だった 【写真:坂本清】

 チーム内のし烈な競争で個の力を磨き、それを結集させ1つの強いチームになる。

 酒井監督が言った。
「負けて、しんどい思いをして這い上がり、チームがひとつに固まった。本当に強いチームになりました」

 やはり久光製薬は強かった。誰しもにそう感じさせた決勝戦を制し、立つべくして頂点に立った。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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