18年Jリーグ、移籍市場のトレンドは? 代理人・田邊伸明氏インタビュー<前編>

宇都宮徹壱

神戸のフロントの構築は磐田に似ている

コーチングスタッフ、フロントをOBで固めてきている神戸。「ジュビロ磐田と似てきているなという印象」と田邊氏 【(C)VISSEL KOBE】

――今季はACL(AFCチャンピオンズリーグ)も戦うC大阪はどうでしょうか?

 ACLに向けて、基本的にバックアップ(メンバー)を獲っている印象ですね。典型例がヤン・ドンヒョン。杉本健勇が(海外移籍で)いなくなるといううわさがありましたが、それを考えれば、獲得していい選手だと思います。

――そう考えると、ヤン・ドンヒョンの獲得は正解でしたね。昨シーズン、ルーカス・ポドルスキの獲得で話題になったヴィッセル神戸はどうですか?

 神戸は、うーん……。練習試合も見ましたけれど、まだメンバーも固まっていませんでしたね。ただポジティブな面もあって、それまでは三木谷(浩史)さんの鶴の一声で欧州から監督を引っ張ってきたり、他クラブで結果を出した選手を連れてきたりしていたけれど、今季はクラブOBで結果を残した吉田(孝行監督)をそのまま残しましたよね。

 加えて、神戸で選手だった内山(俊彦)をモンテディオ山形から引っ張ってきて、コーチに据えた。それからSD(スポーツ・ダイレクター)に三浦淳宏、スカウトに平野(孝)を連れてきた。彼らは全員、神戸出身の(プレー経験がある)選手たちなんですよね。

――吉田監督は横浜フリューゲルスでプレーしていた時の指揮官だったゲルト・エンゲルスを連れて来ましたね。

 これは吉田監督のサポートをするためだと思うんですよね。経験があるということで。ただ、それ以外は神戸のOBで固めてきている。そこのところは、ジュビロ磐田と似てきているなという印象です。こういうフロントの構築は、日本のクラブはもうちょっと見習わなきゃいけないと思う。Jリーグができて25年が経って、元Jリーガーの人材がいっぱいいるわけじゃないですか。そういう人たちが、裏方として古巣のクラブに戻ってきて、うまく機能すれば面白いと思いますね。

――先ほど「昇格して、そのまま来季も監督を続けるパターンは、かなりの確率で失敗する」とおっしゃいました。ただ、名古屋グランパスの風間八宏監督は、単なる“昇格請負人”ではないので当てはまらないと思うのですが。

 名古屋は堅実に10位くらいを狙ってくるんじゃないですか? 風間さんが監督になって以降の川崎の順位の推移を見ると、あまり大きな変動はないですよね。ですから「計算できる監督」だと思うんですよ。新加入ブラジル人のジョーが注目されていますが、基本的なチームビルディングのステップは、川崎時代と同様に堅実だと思います。

年俸を下げてまで海外移籍を決断できるか?

堂安律(右)や冨安健洋といった、東京五輪世代の若い選手たちの海外移籍も目立つ 【Getty Images】

――続いて日本人選手の海外移籍について考えてみたいと思います。今年はW杯イヤーの影響からか、出場機会を求めて長友佑都がインテルからガラタサライへ、原口元気がヘルタ・ベルリンからフォルトルナ・デュッセルドルフへ、といった動きが見られました。その一方で堂安律や冨安健洋といった、東京五輪世代の若い選手たちの海外移籍も目立ちました。以前のインタビューで田邊さんは、「ドイツに移籍する日本人選手の数は鈍化して、移籍先がベルギーやスイスといったセカンドグループからステップアップする傾向が続いている」とおっしゃっていましたが、これに付け加える要素はありますか?

 若い選手の海外移籍ですが、まずDAZNマネーによって選手の年俸の格差ができてきました。すると年俸が上がった選手は、若くても移籍するのが難しくなっていくんですよ。例えばポルティモネンセの中島(翔哉)は、おそらくポルトガルに行くために年俸を下げて行ったはずなんですよ。清武(弘嗣)もドイツからスペインに行くときは年俸を下げているはず。年俸を下げてまで、海外挑戦に踏み切れるかどうかなんですよね。若ければそういう決断ができるけれど、ある程度、年齢が上がって家族ができると難しいと思います。

――なるほど。一方で森岡亮太のように、最初はポーランドのクラブ(シロンスク・ヴロツワフ)からスタートして、ベルギーに活躍の場を移し、名門であるアンデルレヒトで10番を背負うことになった選手もいます。

 それが(海外移籍の)本来あるべき形ですよね。世界ランク50位レベルで、W杯でベスト16が精いっぱいの国の選手が、いきなりドルトムントに移籍するというのは、本来あり得ない話なんです。あとは、18歳くらいでJ1クラブのレギュラーを確保して、そのまま日本代表になって、20歳ちょっとで海外に挑戦するパターンでしょうね。

――例えば井手口陽介のケースはどうですか?

 井手口は代表でブレークして出てきたわけで、「最短」と言うよりギリですよね。浅野(拓磨)と同じで英国のビザが取れないから、リーズからクルトゥラル・レオネサにレンタルされました。スペイン2部が良かったかどうかは置いておいて、代表でインパクトを残して海外移籍という流れは、スタンダードにはなりにくいと思います。それでも、東京五輪世代を中心とした海外移籍の低年齢化は、今後も続いていくと思いますね。

――冨安は田邊さんの会社がエージェント業務をされていますけれど、やはり昨年行われたU−20W杯が、ひとつのきっかけだったのでしょうか?

 その前から、かなりの問い合わせはあったんです。本人も海外志向が強かったから、ウチで契約することになりました。ただ(所属するアビスパ)福岡がJ1に上がれなかったことで、本人の中でも葛藤や不安もあったみたいですけれど、非常にいいクラブ(シント=トロイデン)に移籍できたと思います。

 少しけがで出遅れていますけれど、日本のDMM.comがマネジメントをしていますし、フロントも全部変わりますから。彼にとっては、これ以上ないほど、よい環境でプレーできるようになったと言えるでしょうね。

<後編(3/20掲載予定)に続く>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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