芝田沙季「変わることに怖さはない」 10代の活躍目立つ卓球界で、急成長の20歳

高樹ミナ

目の前の結果ばかりでなく先を見て考える

四天王寺高、ミキハウスとトップチームに所属。実力者たちが集まる環境に、自信を失った時期もあった 【高樹ミナ】

 芝田を「我慢強い選手」と評価する大嶋監督は、気持ちが折れそうになっていた当時の芝田にこう伝えた。

「今、勝てないとかできないとか目の前に見えていることばかりでなく、先を見て自分が何をしなければならないのかを冷静に考えることだ」

 もともと脇目も振らず突き進む性格の芝田はそれが長所でもあるのだが、ややもすれば盲目的になる傾向がある。例えば試合中も一つのプレーに固執しすぎて融通が利かず、「攻めると行き過ぎるし、守ると守りっぱなしで柔軟性がない」と本人もそれを認める。この芝田の性質を踏まえて大嶋監督は、もっと視野を広げ柔軟になることを命じたのだ。

 さらにミキハウスの大先輩で、芝田が卓球人として尊敬してやまない平野の指導も彼女を大いに変えた。目の前の結果に振り回され練習に集中できない芝田に対し、「本来の目的がブレて変わってきてしまっている」と指摘。上のレベルへ行くために何をしなければならないのかを自分で徹底的に考えることを課したという。

 他コーチも含め、師の教えをコツコツと実践していった芝田は着実に変わっていった。最も変わったのは、「以前は言われることを忠実にやるだけだったが、今はコーチと意見を交わせるようになって、練習内容も自分から提案できるようになったこと」と芝田は言う。そうすることで本当に必要な練習を自分の感覚を大事にしながらできるようになり、実力の向上につながっていったのだ。

変化なくして進化なし。まだ伸びしろはある

「心技体智」が重要といわれる卓球は、メンタル、技術、フィジカルに加え戦術がものをいう競技である。そこで「考えられる」選手は強くなっていくし、なおかつ「変われる」選手は常に進化していく。だが、変わるというのは今あるものを失うリスクもはらんでおり、選手には大きな不安が伴う。それを承知の上で「変わることに怖さはない。むしろ楽しい」と目を輝かせる芝田は、持ち味であるフォアハンドのパワードライブに加え、サーブレシーブとバックハンドの強化に取り組み成果を出しつつある。

 実際、飛躍を遂げた17年シーズンは、それまで防戦一方だったバックハンドでコースを打ち分け、チャンスメークしたボールで攻めに転じる器用さが出てきた。また、サーブレシーブからの攻撃の幅もだいぶ広がり、先手を取れるようになった自信からか、ワールドツアーでは世界ランク上位で五輪メダリストでもあるフェン・ティアンウェイ(シンガポール)を初めて倒す一戦もあった。「その3カ月前に対戦した時はストレート負けで、勝てるイメージが全くなかった。この勝利で世界が見えた気がした」と芝田。これが引き金となり17年ワールドツアーでは女子シングルスで2度目の優勝、U21の部で3勝の好成績を挙げている。

 そんな彼女の目下の課題は戦術の使い方とひらめきだそう。対戦相手をじわじわと追い詰める粘り強さと苦しい局面を切り抜ける諦めない姿勢には定評がある。「あとは試合の大事な場面で柔軟に戦術を使い分け、もっと勝負に出られるようになれば」と本人。

 10代の選手が勢いづく日本の卓球界にあって、20歳になったばかりの自分にもまだまだ伸びしろはある。絶対に勝ってやろうという気持ちで、「2020年東京五輪の代表権を勝ち取りたい」と芝田は燃えに燃えている。五輪日本代表の切符はわずか3枚。代表選考が本格化する18年の目標はずばり、日本人トップ3に食い込むことだ。芝田の負けられない挑戦は2020年に向かって加速していく。

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著者プロフィール

スポーツライター。千葉県出身。 アナウンサーからライターに転身。競馬、F1、プロ野球を経て、00年シドニー、04年アテネ、08年北京、10年バンクーバー冬季、16年リオ大会を取材。「16年東京五輪・パラリンピック招致委員会」在籍の経験も生かし、五輪・パラリンピックの意義と魅力を伝える。五輪競技は主に卓球、パラ競技は車いすテニス、陸上(主に義足種目)、トライアスロン等をカバー。執筆活動のほかTV、ラジオ、講演、シンポジウム等にも出演する。最新刊『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)監修他。

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