連載:未来に輝け! ニッポンのアスリートたち
飛躍見せた「関西育ち」のスプリンター 男子短距離の主役に躍り出た多田修平
2017年、活況を呈した陸上男子短距離陣の中で躍進を見せた多田修平 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
自己ベストを一気に10秒0台に縮める
シーズン前、前年の日本選手権準決勝敗退の多田が8月の世界選手権(イギリス・ロンドン)で100メートル準決勝に進んだばかりか、4×100メートルリレーのメダリストメンバーに名を連ね、また、日本人初の9秒台を狙う戦線に立っていようとは誰が予想しただろうか。
9秒台第1号は1学年上の桐生祥秀(東洋大)に持っていかれたが、多田の可能性が陰ることはない。関西育ちのスプリンターが2017年に残した光跡は2020年へと続いている。
人生を変えたシーズン
注目を集めるきっかけとなった5月のセイコーゴールデングランプリ川崎。多田(右)は序盤、ガトリン(右から2番目)を先行する走りを見せ周囲を驚かせた 【写真:アフロスポーツ】
17年5月のセイコーゴールデングランプリ川崎だ。欠場者に代わって追加エントリーされ、この年の世界選手権でウサイン・ボルト(ジャマイカ)らを抑えて優勝することになるジャスティン・ガトリン(米国)、前年の日本選手権覇者のケンブリッジ飛鳥(ナイキ)らと対決するチャンスが巡ってきたのだ。
多田はこのチャンスを逃さなかった。低い姿勢で飛び出し、顔を上げ、加速に乗ったとき、誰よりも先行していた。さすがにガトリンとケンブリッジは勝たせてくれなかったが、多田は3位。優勝したガトリンとは0秒07差。世界的スプリンターから「すばらしい選手だ」と褒められたことも自信を倍増させた。
「シーズン当初は世界選手権のリレーメンバーを狙おうと考えていましたが、ゴールデングランプリで『世界選手権は個人でも』と目標が変わりました」と“設定”を上げた。
多田はさらに日本学生個人選手権で快足を披露した。予選で追い風参考記録ながら日本人国内初の9秒台(9秒94)で駆け抜けたのだ。決勝は公認記録の10秒08(+1.9)。余勢を駆って日本選手権は10秒16(+0.6)で2位。世界選手権代表を実力でつかみ、その大舞台で、100メートルは準決勝進出を果たし、第1走者を務めた4×100メートルリレーでは銅メダル獲得に貢献した。
注目度も期待度も急上昇する一方、多田は現実を冷静に捉えている。
9月の日本学生対校選手権男子100メートルで桐生が9秒98(+1.8)をマークした時、多田は10秒07で2位。シーズン4度目の自己記録更新だったが、「力の差を見せつけられました」と悔しさを噛み締める。
だからこそ、上を向き、「力をつけて、次は9秒台だと思っています」。その言葉が頼もしい。