最大の逆風にさらされるベンゲル 負のサイクルに陥った2つの理由

田嶋コウスケ

就任以来、最大の逆風にさらされているベンゲル

アーセナルのベンゲル監督が過去最大の逆風にさらされている 【Getty Images】

 アーセナルのアーセン・ベンゲル監督が、1996年の就任から22年目にして最大の逆風にさらされている。

 第29節終了時で、首位マンチェスター・シティと33ポイント差の6位に低迷。4位トッテナムにも残り9試合となった時点で13ポイントも離され、「最低限のノルマ」とされる来季のチャンピオンズリーグ(CL)出場圏の4位にも手が届きそうにない。

 成績表からも、低迷は容易に見て取れる。プレミアトップ6クラブとの直接対決は、9試合で1勝3分け5敗と目も当てられない有様。ライバルクラブにことごとく敗れて優勝戦線から離脱し、アウェーゲームの成績も3勝4分け8敗と大きく負け越している。とりわけ、年明けからの失速は顕著で、公式戦14試合ですでに8敗を喫した。

 こうした惨状に、英メディアや識者は批判の集中砲火を浴びせるようになった。決定打となったのが、2月25日(現地時間)に行われたマンCとのリーグカップ決勝。0−3のスコアもさることながら、内容的にも「大人対子供」(元イングランド代表FWのアラン・シアラー)と形容されるほどの完敗を喫し、ここ数年くすぶり続ける「ベンゲル解任論」に再び火がついた。

 さらに追い打ちをかけたのが、その4日後に行われたプレミアリーグ第28節のマンC戦だった。快進撃を続けるジョゼップ・グアルディオラ監督にまたしても完膚なきほどたたきのめされ、ホームながら0−3と大敗した。2試合合計のスコアで0−6という惨敗を受け、フランス人指揮官を取り巻くムードはさらに悪化。まるで最後通告のような「ベンゲル限界説」を唱える論調が一気に増えた。

上が『サン』、下が『デーリー・ミラー』。英紙には辛辣なコメントが並ぶ 【田嶋コウスケ】

 以下、英紙とクラブOBによる辛辣(しんらつ)なコメントの数々である。

「トップ4に返り咲くには、今シーズン終了後に指揮官交代が絶対に必要」(英紙『デーリー・ミラー』)

「アーセナルはベンゲルと袂を分かつべきか? そうでなければ驚きである」(英紙『ガーディアン』)

「近年のアーセナルで、今季は間違いなくワーストシーズン」(クラブOBのマーティン・キーオン)

「アーセナルには、軌道を修正できる経験豊富な監督が必要だ」(クラブOBのエマニュエル・プティ)

繰り返されてきた解任論

ベンゲルへの批判はここ数年繰り返されている。昨年はFA杯を制したことで鎮静した 【Arsenal FC via Getty Images】

 とはいえ、ベンゲル監督への批判は、今に始まったことではない。今シーズンの解任論は最大規模になるが、過去数年にわたり何度も何度も繰り返されてきたのだ。指揮官解任の決断を下せないことこそが、アーセナルが抱える最大の問題点である。

 振り返れば、リーグ4位がほぼ定位置になった2000年後半ごろから、毎年のように進退が取りざたされてきた。冬頃から故障者が続出して失速し、年明けには優勝戦線から脱落する悲しいシナリオは、アーセナルサポーターにとって、もはやおなじみの感もある。

 実際、昨シーズンもバイエルン・ミュンヘンとのCL決勝トーナメント1回戦で2−10(2試合合計スコア)の大敗を喫すると、メディアやサポーターからフランス人指揮官の退任を求める声が相次いだ。しかしFAカップを制したことで、メディア批判は鎮静した。この年は4位圏内を逃してリーグを5位で終えることになるが、契約満了となったシーズン終了後には2年の契約延長に合意し、ベンゲル政権は「続投」となった。

 こうした「解任論噴出」→「続投」の流れを近年のベンゲル政権は繰り返してきたが、フランス人指揮官は抜本的なチーム改革に乗り出すことはなかった。加えて、クラブの筆頭株主で実質的オーナーの米国人スタン・クロンケ氏も、「ビジネス主導」で成績やパフォーマンスにはまるで関心がなく、チームに漂う低迷感を強める一因になった。

 そして、今季の低迷──。リーグタイトルを狙うべきアーセナルのクラブ規模と、払拭(ふっしょく)できないマンネリ感を考えれば、「自ら身を引くべきだ」とベンゲル監督に対して厳しい意見が相次いでいるのも仕方がないだろう。

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著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

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