金メダルへ土台が築けた侍ジャパン 稲葉監督の掲げる“結束”を具現化

中島大輔

攻撃に幅を持たせられる今宮の9番

2戦目は9番・今宮が3打席とも得点に絡む活躍。右打ちあり、送りバントありの今宮の存在が攻撃の幅を広げる 【写真は共同】

 そうしてリードオフマンを務める秋山につなぐ打者、9番を稲葉監督は重視している。4日の2戦目にこの打順で起用された今宮健太(ソフトバンク)は、自身の役割をこう語った。

「1・2番、クリーンアップがすごいバッターの中で点を取ろうと思うと、下位打線が塁に出ることが1点を取る近道なのかなと思いました」

 今宮は2回の第1打席では無死一塁からバントをファウルした後にライト前安打でチャンス拡大し、4回の第2打席では送りバントを成功させた。そして6回には1死からライト前安打で出塁している。いずれも得点につながり、「いい仕事ができたと思う」と胸を張った。

 一方、稲葉監督は今宮を9番に置くことで、作戦に幅を持たせることができた。4回、先頭打者の8番・田村龍弘が四球を選ぶと、続く今宮の初球でバスターエンドランを仕掛けている。

「ああいうことも試せたので非常に良かったと思います。今宮選手もいろいろやってくれましたので、今後につながってくると感じました」

 4日の試合では2安打の9番・今宮、猛打賞の1番・秋山に続き、2番の松本剛(北海道日本ハム)が2安打、1犠打と仕事を果たした。6番で起用された上林誠知(ソフトバンク)も2本のヒットを放っている。3日の試合では外崎修汰(西武)が4打席で3度出塁した一方、大山悠輔(阪神)と西川龍馬(広島)は無安打に終わった。ただし結果はともあれ、若手たちにとって今回の経験が先につながると指揮官は考えている。

「結果が残らなかった選手もいますけど、トップチームの雰囲気を味わえたと思います。これからの選手だと思うので、これを糧に成長してくれたらいいなと思います」

事前の映像確認で持ち味発揮の今永

事前にオーストラリア打線の映像を見た今永。フル代表の登板は初めてだったが、内角を突くピッチングを主体に2回無失点の好投を見せた 【写真は共同】

 一方、2試合連続完封という内容に、稲葉監督は「改めて投手陣のレベルの高さを感じました」と振り返った。千賀滉大(ソフトバンク)、則本昂大(東北楽天)という球界最高峰投手の2人が先発として引っ張り、若手も持ち味を発揮した。

 4日の一戦で3番手としてマウンドに上がった堀瑞輝(日本ハム)は、2イニングをパーフェクトリリーフとアピールした。

「19歳でこの大舞台に立てたのは、自分の経験になります。次も、という強い気持ちも出てきたと思います」

 事前のスカウティングを生かして持ち味を発揮したのが、3日に2番手で2イニングを投げた今永昇太(DeNA)だった。

「右ピッチャー、左ピッチャーと対戦する(オーストラリア代表の)映像を携帯でも見たりして、半速球の方が合いそうだなという印象がありました。真っすぐをしっかりインコースに投げておかないと、外の高めが強いバッターが多いなと。その点、甲斐(拓也/ソフトバンク)さんは真っすぐインコースを軸にして、追い込んでから低めにしっかりと変化球という要求で、その通りに投げられたときはしっかり抑えられました」

 3回から登板した今永は先頭打者をエラーで出すと、続く打者にレフト前に運ばれて無死一、二塁のピンチを招いたが、粘り強く投げて無失点に切り抜けた。その裏にあったのは、2塁手・菊池涼介(広島)の流れを読む目だった。今永が振り返る。

「一、二塁の場面で菊池さんにマウンドに来ていただいて、『バントがあるからしっかりと警戒しよう』と言われて、そこですごく落ち着きました。あの一言がなければ失点してしまうパターンだったので、いい間を作ってもらったと思います」

“五輪”の意識を持っている選手たち

 WBC経験者の名手・菊池が、初めてフル代表で投げた今永に絶妙なタイミングで声をかけ、持ち前の粘り強さを引き出した。こうした相乗効果が、今回の2試合ではさまざまに見られた。東京五輪本番まで決して多くない準備期間でチームを作っていく侍ジャパンにとって、指揮官の掲げる「結束」を具現したのは何よりの収穫だった。

「選手の発言を聞いていると、『オリンピックに向けて』とみんな言ってくれていますので、少しずつそういう意識を持ってくれているのかなと感じています。すごくいいことだと思います」

 シーズン開幕を控えたこの時期にフル代表の試合を組むことには賛否両論あるが、少なくとも13年に常設化された侍ジャパンは国際試合を重ねるにつれ、その経験を確かに蓄積させている。そのゴールとして見据える東京五輪での金メダルという至上命題に向けて、チームの確かな土台ができてきたと感じさせられる2試合だった。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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