ワイルダーがオルティスとの激闘を制す “惑星最恐男”証明のためヘビー統一戦へ

杉浦大介

“最強の武器”の威力が落ちないことを証明

難敵オルティスを破り、真価を証明して見せたワイルダー。次に狙うのは統一王座か 【Getty Images】

「オルティスも胸を張ってこの場所を去ることができるはずだ。ファンにすごいファイトを見せたわけだからね」

 ワイルダーのそんな言葉通り、実際は43歳くらいではないかとささやかれるオルティスも評価を落とすことはないはずだ。KOタイムは10回2分5秒。試合が終わった瞬間、ファン、関係者がほとんど集団ヒステリー状態になったのは冒頭で記した通りである。応援はご法度の記者席で思わず立ち上がり、広報に怒鳴りつけられたメディアも1人や2人ではなかった。まるで漫画のような派手な展開をたどり、映画「ロッキー」のような結末をたどったこの日のタイトル戦は、多くの人々の間で語り継がれていくはずである。

「オルティスは猛然とパンチを振るってきたけど、俺を効かせることはなかった。コンビネーションでバランスを崩されただけだ。その後に自分の距離とバランスを取り戻さなければならなかった。それができると示すことで、俺の真価を示せたと思う」

 中盤ラウンドにダメージを受けていなかったという言葉は信じがたいが、それでもワイルダーは今戦で多くを証明したと言える。初黒星寸前の危機的状況下で、冷静に体勢を立て直すことで心身のタフネス、スタミナを誇示した。それと同時に、最大最強の武器である右パンチは足がふらついていても威力が落ちないことを示した。

 時にひどい空振りを繰り返し、ディフェンスにも甘さが残るワイルダーを“優れたボクサー”と呼んで良いのかどうかは依然として微妙ではある。試合運びにも難はあり、過去にはアーサー・スピルカ(ポーランド)、ジェラルド・ワシントン(米国)といったエリート級と言えない選手にもポイントを奪われたことがある。

 ただ、相手のバランスを一瞬で粉砕する一撃必殺の右ストレートは現代ボクシング界で最強のパンチではないか。KOの予感を最後まで感じさせる王者は、常にファンに何かを期待させる正真正銘のプロフェッショナルでもある。

ジョシュアとの一戦が実現するか!?

「(統一戦への)準備はできているよ。王座を統一したいとこれまでも言い続けてきた。俺こそが“惑星で最も恐ろしい男”であり、今夜、それを証明したはずだ」

 ワイルダーのそんな言葉を聴くまでもなく、ここで難敵を下した後で、今後は他団体との統一戦がこれまで以上にクローズアップされてくるに違いない。特に現地時間3月31日に予定されるWBA、IBF王者アンソニー・ジョシュア(英国)対WBO王者ジョセフ・パーカー(ニュージーランド)で下馬評通りにジョシュアが勝ち残った場合、ワイルダーとの4団体統一戦は垂涎のマッチアップとなる。

 オルティス戦で戦績を40戦全勝(39KO)に伸ばしたワイルダーと、デビュー以来20連勝(20KO)を続けてきたジョシュア。一般層にも分かりやすい戦績を持つもの同士の米英対決は、ボクシングの範疇(はんちゅう)を超えた話題を呼ぶはずだ。この一戦が実現すれば、より完成度に勝るジョシュアが絶対有利と言われるに違いない。

 ただ……打たれ強さには疑問が呈されるジョシュアは、フルラウンドにわたってワイルダーの“イレイザー(すべてを消し去る兵器)”をかわし切れるのか。危険なパンチャーを相手に被弾を避けながら、フィニッシュまで持ち込めるのか。

 オルティス戦を見る限り、それらは一部のジョシュア支持者が思っているほどに容易なこととは感じられない。足をふらふらさせながら、それでも大砲をカウンターでたたき込める米国人の心身のタフさは、英国の英雄にとっても、世界の誰にとっても、最後の最後まで脅威になり得るように思えてくるのである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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