両角友佑が語るカーリング界のリアル 「今の強化方法には限界がきている」

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「五輪で盛り上がってよかったね」では変わらない

両角友(中央)は「五輪で盛り上がってよかったね」では日本のカーリング界は変わらないと考えているようだ 【写真:エンリコ/アフロスポーツ】

――今回の五輪は、女子だけではなく男子の活躍もあり、カーリングに対する注目度がかつてないくらい高まったと思います。今後、この灯(ともしび)を消さないために、どのようなことをしていく必要があると感じていますか?

 僕たちは選手なので、正直やれることは限られています。3月に世界選手権がありますが、自分たちは五輪直前にあった日本選手権に出ていないので出場できません。日本で試合をするチャンスもないですし、世界に出るチャンスもなくなってしまった。カーリング熱が高まっている一番おいしい時期に何もできないんです。

 自分たちのオフは実質6月の1カ月間しかありません。もちろんそれぞれ家庭があったり、仕事があったりする。シーズン中はカーリング中心で過ごしている分、やらなければいけないことがその1カ月に集中します。カーリング教室などをやろうとしても、時間が取れないのが現実です。シーズンに入ってしまうと合宿が続き、何かをする時間が取れないとなると、選手ができることは競技で結果を出すことになってしまう。それは男子も女子も同じ話です。

 だとすると、そのような結果をどう日本に広めるのか。たとえばこの盛り上がっている状況をチャンスに、協会にもっと大きなスポンサーがついて、今だと代表2チームずつくらいを強化しているところを、もっと枠を広げ、ジュニアの育成にスポンサーや資金を集めて、次の世代をどんどん育てていくことができないのか。

――なるほど。

 僕は20年前の長野五輪を見て競技を始めました。今回の五輪を見て、カーリングを始めたいと思う子どもがいるかもしれない。その子たちを育てるための方法を考える必要があります。男子に関しては20年かかったわけです。現状はまだ次の世代が育っていない。そういうことをきちんとやるためにも、選手ではない人の力がすごく重要なんです。その立場にある人が、どれだけカーリングを広めたいとか強化したいと考えるか。

 今まではカーリング関係者の中で回っていたことに関して、そういうやり方に長けた外部の人を入れるという方法もある。今だからこそ、何かできることがあると思います。僕は33歳で、他の競技だったら「最後の五輪だね」と言われてもおかしくない年齢です。でもカーリングはそうじゃない。これでやめれば自分たちが協会の仕事に入って、何か新しい試みをやってみようとなるかもしれないのですが、そうならないのがカーリングの問題でもあります。今までの強化にしても、昔に選手をやっていて世界のトップと戦っていた人はいません。本当の競技が分からない中で、いろいろな話が決まっていきます。たとえばこのタイミングで、いつも通り日本選手権があったらどう考えても盛り上がると思いませんか?

――思います。

 なぜ今回、五輪の前(1月29日〜2月4日)に日本選手権をずらしたのか。その意味が僕には分かりませんでした。日本選手権をこの時期にして、五輪代表チームは出しませんと僕たちは言い切られてしまった。ですので先日、協会に質問状を送り「競技の発展・普及のために僕たちが出ないという選択の意義が分からない」と伝えたところ、「とにかく選手が五輪で活躍してくれることが普及になる」という答えが返ってきました。

 確かにそれもあると思うのですが、「五輪のあとにやった方が、普及の意味では絶対にカーリングが広まるチャンスがある」という思いが僕にはありました。今年の世界選手権は男女すべてテレビ放送があるそうなのですが、世界選手権に出るチームが必ずしも五輪に出たチームじゃなくてもいい。ただ、日本選手権で五輪のチームに勝ったというのがあれば、注目度が全然違います。五輪から日本選手権、そして世界選手権とカーリング熱が相当ふくらむ可能性がある時期だったのを、五輪で切ってしまう形になるんです。「五輪で盛り上がってよかったですね」だと、いつもと変わらない。そういうところをうまくつなぐやり方ができる人が必要だと思います。

「チームごとに頑張って」は限界がある

チームごとの「お任せ強化には限界が来ている」と両角友 【スポーツナビ】

――日本としての強化・育成は進んでいないのでしょうか?

 実際の強化は個々のチーム任せです。そこをもう少しまとめていく必要があると個人的には思っているのですが、今はスポンサーについてもらえているチームだけが強いという、すごく単純な構造になっています。それなのにスポンサーがつきにくいという悪いスパイラルにはまっている。ただ、それ以外の人たちも伸びてこないと、日本のカーリングは強いチームの選手が引退してしまったら、何も残らなくなってしまう。たとえば僕たちがやめて、そのスポンサーが次の人たちに移るかと言ったらそうではない。スポンサーをやめるだけです。

 本当の理想は、協会がスポンサーを持っていて、日本のチームを強化するために協力し合っていくことです。そうした活動をやっていかなければいけないのですが、それができていないというのが現状です。各チームが協会に意見を言わないのは、トップチームは自分たちでできてしまっているからなんです。そういうところが変わっていかないと、20年後も日本のカーリングが発展していけるかどうかについては不安しかないですし、競技自体の課題だと思います。

――両角選手自身は、そういう現状を変えたいと思っているのですね?

 変えたいですね。選手がまだ育っていない状況でやめてしまうと、本当に終わってしまうと思うんです。やめられないから、そちらができずに回らないんです。どうしたらいいんですかね(苦笑)。

――競技をやっている上での環境はいかがですか?

 自分たちのチームは、男子の中では最高の環境でやらせてもらっています。今季に関しては五輪があったので、仕事も時間に融通を利かせてもらい、練習時間もいっぱい取らせてもらっていました。海外遠征に行くための費用も、昔は自分たちで年間にいくらとか払いながら行っていたのですが、スポンサーさんの協力で払わずに行かせてもらえるようになりました。ご飯も毎日なるべく安くしようと冷凍食品などを買って、手羽先みたいなものを「うまい」と言いながら食べていたのですが、今は普通にご飯屋さんに行って、メーンだけではなくサラダも頼めるようになりました(笑)。自分たちがだんだん勝てるようになるにつれて、そういうことができるようになったので、それも苦しいときに実力をつけてきたから、応援してもらえる環境ができてきて、そこまできたという感じがあります。

 ただ、僕たちはそうなるのに10年間かかりました。ですので、今後はそれを5年にできるように、何か方法を考えてあげてほしいなと思います。今のように「チームごとに頑張ってね」というのは限界がありますし、本当に限界のところでみんなやっていると思います。それで強いチーム、弱いチームとに分けられ、仕事をしていたらそれほど休めませんし、練習も夜の時間しかできない。でも次の日、朝から仕事がありますし、海外遠征にも行けない。なのに行かなければ強くならないと言われる。全然うまく回る空気がないので、一部チームだけに頼る、お任せ強化には限界がきていると思います。

最終目標は「カーリングを広めること」

両角友は先を見据え、日本のカーリング環境の改善を願っている 【写真:エンリコ/アフロスポーツ】

――韓国戦後に「4年後の具体的なイメージが湧いていない」とおっしゃっていましたが、数日たってみてどうですか?

 実際にイメージが湧いていないのは今も一緒です。競技をやめたいとは思っていないんです。ここまで積み重ねてきたものもあります。今回男子と女子が一緒に出て、放送時間も今までの倍になり、日本の方もたくさん見てくれました。やっとカーリングにまた明かりがつき始めたところですので、この4年間頑張って、今回は届かなかった表彰台に次の五輪で届くくらいの実力をつけて戻ってこられたら最高だとは思っています。

 ただ、やっぱりまずはここまで支えてもらった方たちに感謝を伝えたうえで、もし次の五輪を目指すのであれば、また4年間一緒に歩いてもらえるかを話し合う必要があります。それが今まで通り協力的にやってくれれば万々歳で、4年後を目指すかもしれないですが、たとえば五輪が近づく2年後からと言われてしまうかもしれない。そういう按配(あんばい)だと自分たちがやりたい合宿を今年はできないとなり、どれくらいのレベルでやるのかを考えなければいけない。

 あとは自分たちのチームでも、どういうメンバーで続けるかを話し合っていく必要があります。やめたいというメンバーを無理やり連れていくわけにはいかないですし、皆それぞれに生活があって人生があります。それで皆でやるとなったらやりますし、その上でさらにスポンサーさんにお願いをしにいかなければならない。自分たちのやりたい気持ち、やらせてくれる環境がそろってこそ、できるものだと思っています。ただ、僕自身はまだまだやりたいと思っています。

――両角選手にとって競技者としての最終目標は何ですか?

 一番は日本のカーリング環境の改善です。それができるのは自分たちがプレーで結果を出すしかないと思っています。世界選手権のメダルでは弱いならば、次の五輪でのメダルです。さらに言うなら、今回ノルウェーのチームには40代後半の選手がいましたので、北京五輪の次の五輪まで出て、男子のカーリングも普通に五輪に出るという空気作りが大事になってくるのかなと思います。そういうことも含めて、僕自身の最終目標はカーリングを日本国内にもっと広めたいということになりますね。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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