高木菜那、開き直りと戦略で勝ち取った金 別競技で培った強みが結実した瞬間

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ショートトラックやサッカーで培ったもの

ショートトラックやサッカーの経験がこの大舞台で生きた 【写真:青木紘二/アフロスポーツ】

 高木菜は今大会、チームパシュートとマススタートで金メダルを獲得。しかし、5000メートルでは12位(最下位)と、純粋に個人でスピードやスタミナを競う種目においては、世界とまだレベル差がある。チーム戦のパシュートは別として、6400メートルを滑るマススタートにおいて、高木菜の強みは何なのか。

 本人の言葉によると、それはショートトラックや、サッカーの経験によって培われたものだという。

 まずショートトラックは、コーナリングの技術を磨くことに役立った。マススタートは集団で滑ることもあり、より細かなコーナリングが要求される。順位がコーナーで入れ替わることも多く、今回も高木菜は最後のコーナーでシャウテンを抜き去った。インの突き方は、ショートトラックのそれを彷彿とさせた。

 また妹の高木美帆(日体大助手)とともに小学校時代にやっていたサッカーでは、周りを見て判断する力を養った。空いているスペースを探し、そこにパスを通したり、相手の隙を突く動きが求められるのがサッカー。周囲の状況を見て、シャウテンの後ろを滑りながら、コーナーで膨らむという隙を見逃さず、その弱みを突く。このレースにおいても、サッカーで得た力が存分に発揮されていた。

「今までやってきたいろいろなことは無駄じゃなかったんだな」

 高木菜は感慨深そうにそうつぶやいた。

妹との比較にさらされてきた競技人生

155センチと日本のスピードスケート陣の中で最も小柄な高木菜。これまでの人生で培ってきた力を総動員して、金メダルを勝ち取った 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 表彰台の中央に立った高木菜は、両手を精いっぱい伸ばしながら1度跳び上がった。身長は155センチと、日本のスピードスケート陣の中で最も小柄だ。右隣にいた2位のキム・ボルムは163センチ、左隣にいた3位のシャウテンは168センチ。表彰台の段差があって、ようやく同じくらいの高さに見えるほど体格の差がある。そんな中で、高木菜は戦略を駆使しながら、これまでの人生で培ってきた力を総動員して、金メダルを勝ち取った。

「まだ実感はないですけど、パシュートと違った金メダルの重みがあります。パシュートは皆で力を合わせて取りにいった金メダル。今回は自分で取りたいと思った金メダルです。良い形で五輪を締めくくることができてよかったと思います」

妹と比較されてきた競技人生「美帆だけではなく、菜那もいるんだぞ」(写真は21日のチームパシュート) 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 これまでの競技人生は、常に妹である高木美との比較にさらされてきた。今大会も高木美は金銀銅3つのメダルを獲得するなど、個人種目でも結果を残した。五輪出場は共に2回目だが、競技において先んじていたのはいつも妹。嫉妬の気持ちがなかったと言ったらうそになる。それでも金メダルを2つ獲得したことで、その存在を高らかにアピールした。

「美帆だけではなく、菜那もいるんだぞというのを見せることができました」

 平昌五輪のスピードスケートにおいて、日本に最初のメダルをもたらしたのは女子1500メートルの高木美だった。そしてこの日、最後の種目となったマススタートで金メダルを獲得したのが高木菜だ。妹に始まり、姉で終わった五輪。メダルラッシュに沸いた今大会のスピードスケートはそんなふうに記憶されていくのだろう。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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