高木菜那、開き直りと戦略で勝ち取った金 別競技で培った強みが結実した瞬間
「信じられない気持ちでいっぱい」
高木菜那が新種目のマススタートで金メダル、開き直りと別競技での経験が引き寄せた勝利だった 【写真:松尾/アフロスポーツ】
「(金メダルを)取りたいなとは思っていたのですが、まさか2つも取れるとは思っていなかったので、本当に信じられない気持ちでいっぱいです」
偉業を成し遂げた本人でさえ驚いた結果。マススタート決勝ではその戦略や判断力、巧みなスケーティングが光った。序盤からイレーネ・シャウテン(オランダ)の後ろにつきながら、空気抵抗を減らし、スタミナの消費を抑えていく。すると残り2周を切ったところからスピードを上げていき、ラスト1周でスパートをかける。そして最後のコーナーでシャウテンをインから抜き去り、そのまま逃げ切った。
「イレーネ選手が1つ前のコーナーで少し膨らんでいたので、これはインに切り込めるかなと思って、切り込んでいきました。(2位になった)キム・ボルム選手(韓国)が後ろにいたので気にはしていたのですが、インには切り込めないかなと思っていたので、前にいることが重要だと考え、ずっと2番手をキープしていました」
マススタートは大勢で一斉に滑るため、戦略や駆け引きが勝負を分ける。レースが「想像通りの展開になった」と語る高木菜は、まさにそのプランを確実に遂行しながら、相手の一瞬の隙を突き、頂点に駆け上ったのだ。
プランの変更を強いられた佐藤の敗退
「ラストでの勝負を狙った」決勝レース、すべてのプランがうまくいった 【写真:青木紘二/アフロスポーツ】
しかし佐藤の敗退により、高木菜はプランの変更を余儀なくされる。それがシャウテンかキム・ボルムの後ろについていく作戦だった。そして序盤から前に出たのがシャウテンだったこともあり、かつて練習を共にしたこのオランダ人をマークしていくことに決めたのだという。
「佐藤がいたら一緒に作戦を組んで1、2フィニッシュを狙おうと思っていました。ただ佐藤がいないぶん、自分1人でいくしかないと腹をくくり、ラストでの勝負を狙って、佐藤の分も頑張ろうと思いました」
こうした開き直りも、この結果を生んだ1つの要因だろう。高木菜は展開を読む能力や判断力があるがゆえに、佐藤のことも考えてレースに臨んでいる部分があった。しかし、今回は1人だったこともあり、自身のプランを遂行することだけに集中できた。もちろんこれが常にハマるわけではなく、個人の力では限界があることから、日本はチーム戦を選択していたのだが、このレースにおいてはすべてがうまくいった。