平昌五輪で注目すべきスーパースター アルペン男女金メダル候補はこの4人だ

田草川嘉雄

高速系と技術系、スペシャリストとして先鋭化

W杯6年連続総合優勝の大記録を持つヒルシャー、悲願の五輪金メダルを手中にすることはできるか 【田草川嘉雄】

 平昌五輪のアルペン競技は、男女各5種目と男女混合のチームイベントの計11レースが行なわれる。個人種目はダウンヒル(DH/滑降)、スーパーG(SG/スーパー大回転)、ジャイアント・スラローム(GS/大回転)、スラローム(SL/回転)、アルペン・コンバインド(AC/アルペン複合)の5種目。加えて今大会から新たにアルペン・チームイベント(TE/アルペン団体)が加わる。サイド・バイ・サイドで1対1の勝負であるチーム・イベントを除けば、アルペン競技はすべて一人ずつ滑る。滑走中に戦う相手の姿は見えず、いかに速いタイムでゴールするかというタイムレースの形式で行なわれるのが特徴だ。

 アルペン競技の種目をスピードの速い順に並べると、ダウンヒル、スーパーG、ジャイアント・スラローム、スラロームとなる。このうちダウンヒルとスーパーGは高速系種目、ジャイアント・スラロームとスラロームは技術系種目と呼ばれている。レギュレーションの違いは他にもいろいろあるのだが、もっとも顕著な相違は、高速系種目は1回の滑走で、技術系種目は2回の滑走の合計タイムで競われる点だ。ちなみにアルペン・コンバインドは短縮ダウンヒルとスラローム1本の合計タイムを競い合う

 また同じアルペン競技であっても、種目の特性は大きく異なる。かつてはすべての種目を偏りなくこなすオールラウンダーも活躍していたが、それぞれの種目が極度に先鋭化した現在では、多くても3種目を戦うのが精いっぱい。ほとんどの選手がスペシャリストとして高速系、あるいは技術系種目に絞っているのが現状と言える。

米国が誇る2人の女王

高速系種目の女王ボン、五輪前のW杯で3連勝と俄然調子を上げてきた 【写真:ロイター/アフロ】

 そんな背景をもとに平昌五輪のアルペンシーンを俯瞰すると、4人のトップレーサーが有力な金メダル候補として浮かんでくる。リンジー・ボン(米国)、ミカエラ・シフリン(米国)、マルセル・ヒルシャー(オーストリア)、アクセル・ルンド・スビンダール(ノルウェー)の4人。いずれもワールドカップ(W杯)で大活躍し、総合優勝を複数回経験しているスター選手である。

 リンジー・ボンは、高速系種目で圧倒的な強さを発揮する33歳のベテラン。W杯での優勝回数は現役最多の81勝。絶対に破られることはないと言われた、あのインゲマル・ステンマルク(スウェーデン)が持つ歴代最多勝記録86まで、あと5つに迫ってきた。本人は「今季の目標は五輪での金メダル。通算勝利数のことは今はあまり考えていない」と発言し、W杯は五輪のための調整の場と位置づけて戦ってきたが、五輪前のW杯ではダウンヒル3連勝とがぜん調子を上げてきた。

 スピードに滅法強いだけに、そのレースっぷりは強気で過激。したがって選手生命に関わるような大けがを何度も経験し、そのたびに不死鳥のように立ち上がってきた不屈のファイター。コンディションは万全とはいえないものの、狙った獲物はけっして逃さない勝負勘が大きな武器だ。

22歳のシフリンは、4年前のソチでは五輪のアルペン史上最年少でスラロームの金メダルを獲得 【写真:ロイター/アフロ】

 そのボンの11歳年下のチームメイト、シフリンは、技術系、とくにスラロームを得意とする。W杯ではすでに41勝を上げており、これはボンの22歳当時を遥かに上回る驚異的なハイペースだ。ジュニア時代から他を圧倒した早熟のレーサー。早くから注目され、しかし早熟が成熟に至らず消えていった“天才少女”も多い中、彼女は着実かつ急激な成長を続け、一気に世界の頂点にまで上り詰めた。ソチ五輪では、五輪のアルペン史上最年少でスラロームの金メダルを獲得し、世界選手権のスラロームでは3連覇中。さらに今季のW杯総合では2連覇に向け、2位以下に大差をつけて独走している。

 こうしてスラロームを中心に技術系を主戦場として戦ってきたシフリンだが、今季は高速系種目にも進出しオールラウンダーへと進化しつつもある。すでにダウンヒルでも初勝利をあげており、スピードに対する非凡な強さをも証明。あくまでも可能性としてだが、五輪史上初の5種目制覇の期待をもたせる唯一のレーサーと言える。

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著者プロフィール

1956年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、スキー専門誌編集部勤務。98年よりフリーランスのライター&カメラマンとしてアルペンレースを取材する。著書に岡部哲也のレース人生を描いた『終わらない冬』(スキージャーナル)がある

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