スケート競技の第一線で長く戦うには 【対談】加藤条治×小塚崇彦 前編
フィギュアはもっと研究をしていくべき
スピードスケートに比べて、フィギュアスケートは研究が遅れているという。小塚さんはその重要性を説いた 【坂本清】
加藤 全然大丈夫だと思います。昔と比べるとスポーツ医学も発展していますし、ケガが圧倒的に減ったというのが、競技人生が長くなった1つの大きな要因だと思います。昔はケガで引退する選手が圧倒的に多かった。それが少なくなったことで、経験を積んで自分を高めることができる。スケートは技術的な部分がものすごく大事で、体力で追いつかないことがあっても、技術でいくらでもカバーすることができるんです。それに加えて、体力的に向上していくことができれば、30代からピークを迎えるというのは十分可能だと思います。
あと、スピードスケートは環境的に恵まれているスポーツだと思います。国がサポートしてくれているし、他のマイナースポーツに比べると企業のサポート体制もしっかりしている。競技に専念できる環境があるというのが、30代になってもピークを迎えられる要因の1つだと思います。
小塚 フィギュアスケートは今すごく注目されているので、たくさんの人がサポートに回ってくれています。ただ、流れとしては22歳、大学卒業と同時に引退して企業に就職するという人が多いです。最近は企業に勤めながら競技に打ち込むという選手が少しずつ増えてきて、それがどんどん増えてくるといいとは思うのですが、まだまだフィギュアスケート界で長く競技を続けることに対して、「まだやっているの?」という疑問が出てくる。そういった疑問が払拭されるといいなと思います。
あと、スピードスケートはいろいろな研究がされています。選手の経験が文章化されているのは大きくて、それが1つずつ積み重なり、ケガの防止などにつながっていると思います。(スピード強化部長の)湯田淳先生や(小平奈緒らを指導する)結城匡啓先生はすごく研究をしている。フィギュアスケートはまだまだ文献が少ない。そういう研究をもっと取り入れていく必要があると思っています。道具などもスピードスケートに比べたらかなり遅れています。(1998年の)長野五輪のときにスラップスケート(編注:ブレードと靴のかかとが離れるスケート靴)が出てきて、それからみんなが使っているのも、研究の結果によるものだと思います。フィギュアスケートの道具は、軽いといいねくらいしかまだ言われていない。スピードスケートは金銭的なサポートだけではなく、知識や技術のサポートも充実しているなと感じます。
ブレード開発に携わる小塚さんが協力を要請
小塚さんからの要請に、加藤は「時間があれば協力しますよ」と返答 【坂本清】
加藤 いや、実は俺もよく分かっていないんだよね(笑)。
小塚 金属にもいろいろな種類があるということを、開発しているときに知りました。金属の靱性(じんせい。編注:材料の粘り強さ)というものがあって、飛行機の羽のようにたわむものです。そういう素材で滑ったらどうなるのかなと思って……。滑ることに関してはスピードスケートの方が長けているので、機会があればぜひ協力してもらいたいと思っています。ブレードの刃は替えられるものですか?
加藤 簡単に替えられるよ。
小塚 どこから替えなくてはいけないですか?
加藤 靴があって、その下に1つスラップを起動させるシステムがあり、ブレードがある。その先は全部好きなようにいじれる。
小塚 試してもらうことは可能ですか?
加藤 スラップとシステムの補完性があればね。
小塚 ブレードを全く同じように作る方法があります。三次元でスキャンして、それを削り出しで作る。削り出しで作ると99.9パーセント同じものができるんです。
加藤 スピードスケートはフィギュアと若干作りが違っていて、フィギュアは形をそのまま切り出せばいいかもしれないけど、スピードスケートはブレードの中にも軸となるところがチューブになっている。そのチューブで挟み込む部分が違うから、どうかな……。
小塚 基本的に金属であれば何でも削り出しで、加工もできます。
加藤 なるほど。やってみたら面白いかもね。
小塚 今、僕が作っているブレードは靱性があって、男子のジャンプの衝撃を吸収してくれるようになり、足への負担も少なくなりました。しなりがあるから、そのしなりの反発力もあってかよく滑ると言ってくれる人が多いのですが、スピードスケートだとどうかなと思って……。靭性があるから逆に力が吸収されてしまうとか、そういうのがあるかなと。材質がしなればしなるほどいいのか、しならないほうがいいのか。硬い方が滑りやすいのか。それがすごく気になるので、ぜひ相談に乗ってください。
加藤 分析してもらうのは全然できるよ。面白いと思う。ただ、時間はかかるかな。作ってすぐには使えないと思う。
小塚 そうでしょうね。僕もフィギュアで5年かかっているので、それは分かっています。ただ、やはりトップ選手の感覚はすごく大事で、その感覚を言葉にできる人はなかなかいないので、相談に乗ってもらえるとうれしいなと思って話をしました。こういうところで既成事実を作りたいので、書いておいてくださいね(笑)。
――分かりました(笑)。
加藤 時間があれば協力しますよ(笑)。
(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)
<後編は2月19日掲載予定>