W杯で武器になる鈴木武蔵の高さと跳躍力 日本代表にこの選手を呼べ!<長崎編>

藤原裕久

長崎で覚醒を期すジャマイカ生まれの侍

2010年から年代別日本代表に選出されていた鈴木武蔵。16年にはリオ五輪に出場 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 本来ならば、日本代表どころかJ1での経験すら少ない選手が大半を占めるV・ファーレン長崎から、ハリルジャパンに推せるような選手を指名するのは容易なことではない。その中であえて名を挙げるとするならば、安定感や経験を評価して徳永悠平あたりとなるだろう。だが、それでは少しばかり刺激が少ない。

 ここはやはり大舞台でラッキーボーイ的な存在となり得る可能性をもった若手の名を推したいところ。そうなれば、この男の名前を思い浮かべる人は多いだろう。鈴木武蔵、長崎で覚醒を期すジャマイカ生まれの侍だ。

 2010年にU−16日本代表に選出され、圧倒的なフィジカルと得点力で脚光を浴びてからすでに8年。アルビレックス新潟や松本山雅FCといった所属クラブでは結果を残すことができなかった鈴木だが、そのポテンシャルの高さは誰もが認めるところ。近年の様子から「鈴木は早熟型だった」と評する声があるのは事実だが、鈴木が高さ・跳躍力・スピードの3つを併せ持っていることも動かしようのない事実だ。

 それだけに課題とされる足元の技術とゴール前でのポジショニングや判断力が改善されれば、飛躍する可能性は十分だろう。過去には永井龍(現松本)をJ2屈指のストライカーとして開花させ、昨年は無名のスペイン人FWファンマを前線の起点に据えて長崎のJ1昇格を達成した高木琢也監督も、「徹底的に鍛え上げようと思っている。ちゃんと伸びれば、かなり良いところまでいくだけのものは持っているよ」と期待を隠さない。

 鈴木自身も加入にあたって「高木監督からゴール前のポジショニングなどを学びたい」と発言しており、キャンプでもボールの引き出し方、収め方、前からの守備や周囲との連係についてトレーニングが行われていた。全ての課題が短期間でクリアされるわけではないが、トレーニングに汗を流し、自らの動きについて真剣な表情で考える鈴木の姿には、変化の兆しを感じることができる。

大舞台ほど発揮される鈴木の“勝負強さ”

経営危機からのJ1昇格を果たした長崎のように、這い上がった鈴木の姿をロシアのピッチで見たい 【(C)J.LEAGUE】

 ワールドカップ(W杯)ロシア大会で日本の所属するグループHにはコロンビア、セネガル、ポーランドが所属。コロンビアにはラダメル・ファルカオ、セネガルにはサディオ・マネ、ポーランドにはロベルト・レバンドフスキと、どの国も確固たるエースを抱え、攻撃力に秀でた難敵だ。対戦では日本が受け身になる時間が多くなると予想されており、得点を奪うには攻撃の速さが不可欠となる。

 現在の代表で速攻を担うのは久保裕也や浅野拓磨。2人とも足元の技術で鈴木を上回り、スピードにも長けたレギュラー格だ。ここに割って入るのはたやすいことではないが、鈴木にはスピード以外にも、185センチという長身と垂直跳び90センチ以上とも言われる跳躍力がある。セットプレーからの得点が重要性を増すW杯で、この高さは大きな武器となるはずだ。

 もちろん、高さを生かして活躍するには、課題とされるゴール前のポジショニングが克服され、ストロングと言えるまでに成長することが前提だ。本大会までの残り少ない時間で劇的な成長を遂げて、アピールできる結果を出すことの難しさも十分に承知している。それでも、鈴木のキャリアを振り返ったとき、何かを期待したいという気持ちが沸き起こってくる。

 無名の存在から一気に全国区の存在へと躍り出た高校時代、U−16代表でデビューしてから、各年代の大会で見せてきた衝撃的なスピードと得点力。追加招集されたリオデジャネイロ五輪でのナイジェリア戦のゴール。天性と言えるような鈴木の勝負強さは、大舞台ほど発揮されてきた。昨年、経営危機からのJ1昇格という長崎の逆転劇を目の当たりにした身として、這い上がる者の強さは十分に理解している。だからこそ、鈴木が這い上がったときの強さをロシアのピッチで見てみたいと思うのだ。
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著者プロフィール

長崎県生まれ。年代・カテゴリーを問わず、長崎のサッカーを中心に取材する長崎県在住ライター。特にV・ファーレン長崎については、2005年のクラブ創設から現在に至るまで最も近くで取材しており、11年にはJリーグ昇格記念誌を発行、15年にはクラブ設立10周年メモリアルOB戦を企画・運営。現在も各種媒体でリポート・コラムなどを執筆している。

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