Jリーグが進めたデジタル戦略と国際戦略 2017シーズンを村井チェアマンが振り返る

宇都宮徹壱
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提供:(公社)日本プロサッカーリーグ

世界からもっと学ばなければならない

札幌のチャナティップのように、J1でも十分に戦えるASEANの選手が出てくるようになった 【写真は共同】

──最後にJリーグの国際戦略について伺いたいと思います。デジタルと国際戦略は、Jリーグの今後の発展で不可欠な両輪であると認識しています。12年からスタートしたアジア戦略は昨年で6年目となり、北海道コンサドーレ札幌が獲得したチャナティップ・ソングラシンのように、J1でも十分に戦えるASEANの選手が出てきました。

 最近のタイやベトナムの躍進を見ていると、たとえばJ1でプレーすることは難しくても、J2やJ3ならば通用しそうな選手がきっといると思うんですよね。いよいよJ1でも十分に戦える選手も現れて、だんだんとアジア戦略で描いたリーグ間交流が選手間交流を生みだすといったことが、現実化してきたという手応えは感じています。ただ、アジアへの貢献も重要な一方で、われわれ自身も世界からもっと学ばなければならないというフェーズにいます。その意味で昨年、スペインのラ・リーガとの提携は、Jリーグにとって非常に大きなことでした。

──村井さんもスペインに行ってラ・リーガのトップとお話されたそうですが、副理事長の原博実さんがJ3クラブの社長たちを引率して、スペイン視察を行ったのも画期的でしたね。

 わたしたちは向こうのカンテラーノ(育成組織)の仕組みを学びたかったし、2部以下の中小クラブがどういう経営ビジョンを持って地域に根ざしているのかを知りたい。ラ・リーガのハビエル・テバス会長にそうお願いしたら、すぐに快諾してもらえ、実現しました。

 なぜJ3クラブが対象だったかというと、彼らはラ・リーガは別世界だと思っていたんですよね。でも、例えばエイバルのような小さな街のクラブでも、ちゃんとトップリーグで戦っていて、しかも市民から愛されている。そうした地域との絆や、クラブ経営の思想・哲学がそれぞれの歴史や文化に根ざしているのを目の当たりにして、J3の社長たちもものすごく自信を持ったと思います。

──何人かの社長さんのSNSなどの投稿を見ると、皆さん現地でいろいろな発見があっただけでなく、けっこう勇気づけられたような印象を受けました。発展途上にあるJリーグが、ラ・リーガと提携することで得られるものは確かに多いと思うんです。では逆に、ラ・リーガ側にとってのメリットは何でしょうか?

 これは(提携の際の)会見の時に聞いたのですが、向こうは向こうでJリーグとDAZNの関係を学びたいと言っていましたね。もちろん、DAZNとラ・リーガはコンテンツのやりとりはあるんですけれども、全試合をスペイン国内で中継しているわけではない。それができている日本は今、どういう状況なのかということを意見交換したいと。ですので今月もまた、スペインに行ってきますよ。

今年は次の四半世紀に向けてのスタート

──「世界から学ぶ」ということで言えば、JJP(JFA/Jリーグ協働育成プログラム)として、指導者海外派遣が始まりました。昨年はJクラブから4人の若手指導者が、フォルトゥナ・デュッセルドルフ(ドイツ)、RSCアンデルレヒト(ベルギー)、レアル・ソシエダ(スペイン)そしてボイボディナ・ノビサド(セルビア)で学んでいます。リーグとして指導者育成にも力を入れている理由を教えていただけますでしょうか?

 このJJPというのは、JFAとJリーグで相談しながら予算をつけて、去年初めて指導者を長期で海外に送り出しました。ちょっとこれを見ていただけますか。
(PC画面を見せながら)これは過去3大会のワールドカップ(W杯)ベスト4の顔ぶれですが、すべてが自国の監督か、その国の言葉を話す監督なんですね。また、スタメン11人のうち半数以上が自国リーグでプレーしている。そうして考えると、日本が30年にW杯ベスト4を目指すのであれば、日本人監督をしっかり育てて、W杯に出場する選手を国内から輩出するリーグになることが、われわれに課せられた使命だと思っています。

──つまり日本がW杯ベスト4に進むためには、監督は日本人である必要があると。

 そのためには今後12年、できるだけ多くの有望な日本人指導者を送り出して、海外で経験を積んでいってほしいと考えています。過去のPUB REPORTに、レアル・マドリーとJクラブのプレーを数値化した資料を掲載しました。それによると、コンマ1秒のスピード、コンマ1センチの精度の戦いが世界を制するカギになる。そのギリギリの戦いに競り勝つには、コミュニケーションがものすごく重要になります。つまり、通訳を介さない意思伝達ということですよね。そのためにも提携国にお願いして、今後もどんどん指導者を送り出していきたい。世界を知る指導者を増やしていき、それがJリーグに還元されてリーグのレベルアップにつながっていく。そういう循環が必要だと考えています。

──いろいろお話も尽きないですが、最後の質問です。18年はJリーグ開幕から25周年を迎えるわけですが、節目の年を迎えるにあたって村井さんが考えていることを、あらためて教えていただけますでしょうか。

 まず今年はW杯イヤーなので、日本がロシアで好成績を残せるように、Jリーグとしても高いコンディションとレベルの試合を続けていくことが大きなテーマだと思います。それから今年は、Jリーグ発足からひとつの四半世紀が終わって、次の四半世紀に向けてスタートする年でもあります。ですので、やや中長期的なJリーグの展望を社会に示したいですね。これまでのJリーグの足跡と、次に向けた展望を伝える年にしたいと思っています。

PUB REPORTの中で「非連続の成長」という言葉を良く使う村井チェアマンは、今後どのように世界に向けて発信していくのだろうか 【宇都宮徹壱】

【デロイトトーマツの見方】
 理念を外部環境に対応できるよう、柔軟に解釈しながら成長を続けることは一般の企業でもなかなかできないことだと思います。村井チェアマンはPUB REPORTの中で「非連続の成長」という言葉をよく使っていらっしゃいますね。

 昨年はDAZNと一緒に大きくジャンプされましたが、ここからさらにどんな飛躍を見せてくれるのか楽しみにしています。そして今年は25周年という節目の年ですよね。理念のひとつである「国際社会における交流及び親善への貢献」ということも含め、Jリーグブランドというものを、今後どのように世界に向けて発信していくのか、そのあたりに注目しています。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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