メジャー挑戦する牧田和久の価値 海を渡る“絶滅危惧種”のサブマリン

中島大輔

自身の心を操るのに優れた投手

アンダースローとピンチにも動じない強いメンタルで、西武での7年間で276試合、53勝49敗25S、防御率2.83の成績を残した 【写真は共同】

 いくら速い球や鋭い変化球を持っていても、自分を制御できずに実力を発揮できない投手が少なくない。対して牧田は、自身の心を操るのに優れたピッチャーだ。

 改めてそのメンタルコントロール術に驚かさたのが、17年6月2日、神宮球場で行われた交流戦の東京ヤクルト戦だった。味方が2点を奪って3対2と逆転した直後、エースの菊池雄星を引き継ぎ7回から2番手として登板すると、1死から2連打で一、二塁のピンチを招いた。嫌な流れで迎えた山田哲人、坂口智隆を抑えて切り抜けると、マウンドでの心境を牧田はこう振り返った。

「ピンチで早くアウトをほしがると、甘めに行って痛打されます。マイナスのことを考えるとマイナスの結果になるので、プラスのことに置き換えています。いい意味で開き直って投げないと、ピンチは抑えられない。ましてや抑えのピッチャーは一番苦しいと思うので、開き直って投げるしかないと思います」

強打者に対して有効なのはカーブ

 日本で数々の修羅場をくぐり抜けてきた牧田は、果たしてメジャーリーグで通用するのだろうか。WBCでオランダ代表の4番を張ったバレンティンでさえ、メジャーではレギュラーを確保できなかったほど強打者そろいの世界だ。

 しかも昨年、フライボール革命の風が吹き荒れた。打球角度30度前後が長打になりやすいとスタットキャストで判明し、アッパースイングの打者が増えた結果、本塁打は史上最多の6105本を記録。テクノロジーの進化とともに、より合理的になったベースボールはパワフルさを増している印象だ。

 一方、そんなトレンドのなかで脚光を浴びたのが高めのフォーシームだった。アッパースイングの打者に対し、投手がスピードボールを高めに投げ切れば、空振りを奪うことができる。下手投げの牧田も得意とするボールだ。ただし一歩間違えば、スタンドに放り込まれる危険も秘めている。

「高めのフォーシームは有効ではあると思うんですけど、その前に見せる球が一番重要だと思います。変化球で前に出して、高めで勝負というのもありますし。僕にとって有効なのはカーブかな。でも、日本に帰ってきていろいろな映像を見ていると、高めの球を上からたたいてホームランにするのもありました。データにしても、自分と似たように投げている人は少ないので、参考にならないと思う。戦ってみて、肌で感じるしかないと思います」

「自分の持ち味を最大限出したい」

西武の球団職員(右)から花束を贈られる牧田。「自分の持ち味を最大限に出していきたい」と抱負を語った 【写真は共同】

 高校1年の秋にアンダースローを始めたことが、プロでここまでたどり着いた要因だと牧田は振り返る。周囲に参考にできるものがほとんどなかった一方、「代わりがいない」という希少価値が売りになった。下手投げから体現する投球テクニックは、自身の道を切り開くための唯一無二の武器である。

「パワーピッチャーが多いアメリカで、自分の緩急を使ったピッチングと、リズムよく投げることでどれだけやっていけるか。しっかりバッターを見て、自分の持っているものを最大限に出していきたいと思います」

 トルネード投法の野茂英雄、安打製造機のイチローなど、独自のスタイルを持つ日本人選手たちがメジャーでインパクトを残してきた。負けず劣らずオリジナリティーの高い牧田和久は、新天地でどんな成績を残すだろうか。

 フライボール革命の風がまだまだ吹き続けそうななかだからこそ、“絶滅危惧種”と言われるサブマリンの挑戦には価値がある。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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