選手権上位に見られた交代枠5の積極活用 今後は「総力戦」が勝ち上がりの鍵に
激しいポジション争いにもまれてきた流経大柏
流経大柏の本田裕一郎監督(中央)は毎試合のようにスタメンの一部を変化させてきた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
毎年のようにハイレベルなチームに仕上げてくる流経大柏の最大の特徴と言えば、高校サッカー界ナンバーワンとも言える「選手層の厚さ」にある。ただ良い選手だけを集めているのではなく、毎年のように激しいチーム内競争を促しているからだ。
プレミアリーグ(今年度はプリンスリーグ関東)を見ても、毎試合のようにスタメンが入れ替わり、毎年「流経大柏のベストメンバーはどれ?」と聞かれても、「分からない。いつも変わるから」と答えるしかないほどなのだ。これまでベンチにも入っていなかった選手がいきなりスタメンを飾ったり、不動の存在だろうと思っていた選手が突然ベンチ外になったりということはざらで、外されたかと思ったら再び舞い戻ってくるパターンも多い。
現に今年のチームで言うと、選手権でピッチに立った選手の中で6人がインターハイでベンチにも入っていない。さらにインターハイと今大会でボランチの主軸となっている宮本泰晟も、つい最近まではベンチにも入れなかった。それだけ入れ替わりの激しい1年を過ごしながら、最後にその競争を勝ち抜いた選手たちがピッチにもベンチにもいるからこそ、より交代策が効力を発揮していく。
今大会でもFWは初戦の大分西(大分)戦、3回戦の日章学園(宮崎)戦で2年生の熊澤和希をスタメン起用したが、精彩を欠き、途中出場の3年生MF加藤蓮の動きが良いと見るや、準々決勝の長崎総科大附(長崎)戦では加藤蓮をスタメン起用。加藤蓮は2点目をアシストすると、後半33分に加藤蓮に代えて熊澤を投入。40分には熊澤が今大会初ゴールとなる3点目をマークした。
準決勝の矢板中央戦ではFW近藤潤を今大会初スタメンで起用し、0−0で迎えた前半43分に近藤潤に代えて熊澤を、後半11分にMF石川貴登に代えて加藤蓮を投入し、一気に勝負に出たことで、19分の加藤蓮のスーパーシュートによる決勝弾につながった。決勝では交代策は実らなかったが、流経大柏にとってこの「1枠増」は、まさに願ったりかなったりの改革だった。
5枠を意識したチーム作りが増える?
2度目のベスト4に輝いた矢板中央は交代枠の増加を歓迎し、積極的に活用 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
「チームが劣勢になったときにウチはいろいろな選手がいる。特に前線には後半から投入すると効果的なドリブラーがたくさんいるので、選手権ではチームの活性化を図るために交代枠5を有効活用したい」
選手権直前のプリンスリーグ関東参入戦で2勝し、来季のプリンス関東への昇格を決めた後、高橋健二監督はこう公言していた。現にプリンス関東参入戦でも、後半の交代ラッシュで相手を押し切って勝利をたぐり寄せていた。
ガーナ人の父と日本人の母を持つ190センチの2年生ストライカー・望月謙をスタートで起用して、圧倒的な高さで相手を威圧してから、早い段階で181センチの高さと足元のテクニックを誇る2年生FW大塚尋斗を投入し、変化をもたらす「必勝リレー」は、初戦の2回戦から準決勝まですべてで行われた。
さらにFW山下育海、MF板橋幸大、飯島翼の3人のドリブラーはすべて途中から投入され、大塚のポストプレーから彼らが持ち味を存分に発揮し、運動量が落ちて来た相手チームを粉砕する。
これだけ使ってもあと1枠ある。あと1枠はハプニングや最後の最後まで戦況を見極めるとき用に残せることは、とてつもなく大きい。そもそも5枠でなければ、毎試合「望月→大塚」の必勝リレーはできなかっただろう。
たかが1枠、されど1枠。
今大会の流れを受けて、来年以降は5枠を意識したチーム作りをしてくるチームが増えるかもしれない。積極的に交代策や選手起用を行うことで、全体の底上げが期待できるし、冬の選手権は「総力戦」でないと勝ち上がれなくなりそうだ。果たして、来年はどのチームが選手層でリードした状態で選手権に臨み、交代策に応じた結果を得られるのだろうか。来季はその着眼点で高校サッカーを見ていきたいと思う。