前橋育英を決勝に導いた「影のMVP」 夏の得点王が見せた3つの絶妙アシスト

安藤隆人

準決勝で3アシストの大活躍

準決勝で2ゴールを挙げた前橋育英の俊足MF五十嵐(右)。2点ともアシストをしたのは2年生FW榎本だった 【Noriko NAGANO】

 1月6日に行われた第96回全国高校サッカー選手権大会の準決勝・上田西(長野)戦。前橋育英(群馬)は怒とうのゴールラッシュで、大量6得点をマーク。今大会初失点は献上したものの、6−1の大勝で2年連続の決勝進出を果たした。

 この試合、得点ランキング単独トップに立つFW飯島陸が2ゴール、俊足MF五十嵐理人が2ゴールを挙げたことで、試合後のミックスゾーンではこの2人にメディアの取材が集中したが、この試合で「影のMVP」は3アシストをした2年生FW榎本樹だった。

 春先はスタメンに絡めなかった男は、インターハイ(高校総体)でメンバー17人にギリギリで滑り込むと、初戦からスタメンで抜てきされて一気に大ブレーク。終わってみれば大会得点王(5得点)まで登り詰めた。

 夏以降は新エースストライカーとして前線に君臨するようになった。186センチの高さを持ちながらも、空中戦だけでなく足下でボールをコントロールして、正確なラストパスを出せるのが魅力。ゴールパターンも多彩で、ヘッドやドリブルシュート、一度はたいてから裏に飛び込んでのワンタッチゴールも得意な形だ。

「インターハイで自信がついたことが大きいです。しっかりと周りを生かしながらも、自分が決め切るということがイメージ通りにできた」

 プリンスリーグ関東でもスターターとして前線で起点を作り続け、時には後半途中に自身と交代することが多かった同じ185センチのFW宮崎鴻と「ハイタワー2トップ」を形成し、相手を脅威にさらしたこともあった。

 プレミアリーグ参入戦こそ、決定戦でジュビロ磐田U−18に敗れ、悲願のプレミアリーグ昇格は果たせなかったが、「この悔しさは選手権でぶつけるしかないと思った。選手権王者になることだけ考えた」と、悔しさをバネに夏と同様に選手権での爆発を誓った。

「もっと点に絡みたい」

榎本は準々決勝の米子北戦でゴールを決め、試合後に「もっと点に絡みたい」とコメント 【Noriko NAGANO】

 選手権は快進撃を続ける中で初戦の初芝橋本(和歌山)戦、3回戦の富山第一(富山)戦はノーゴールに終わったが、準々決勝の米子北(鳥取)戦でチームの2点目をマーク。

「コンディションは悪くはないのですが、なかなか結果がついてこなかった。でも、1点を取れたことで、もっと点に絡みたいと思うようになりました」

 迎えた上田西戦。立ち上がりから前線で相手のマークをはがすために変化をつけながら動いて、起点を作ろうとする榎本の姿があった。

 24分にDF松田陸がCKから先制点を挙げると、直後の27分、少し右サイドに膨らんでMF田部井悠の右からのパスを受けると、中央のスペースに飛び込んだ飯島の足下に絶妙なパスを送り込む。これをワンタッチでコントロールして前を向いた飯島が、切り返しから右足シュートを沈めた。29分にカウンターから今大会初失点を浴び、チームに少し重苦しい空気が流れ始めたが、35分には自陣でボールを受けると、一気にドリブルで相手陣内に運んで、裏に抜け出そうとした五十嵐へ絶妙なタイミングで右足アウトサイドのスルーパスを送り込んだ。

「五十嵐さんなら追いつくと思って、ちょっとスピードに乗せて長めに出したらうまくいきました」と狙い通り。五十嵐がより加速する時間を作り出す超絶スルーパスは、上田西の反撃の機運を完全に反らす決定的な3点目につながった。そして後半18分にも五十嵐のゴールをアシストし、3アシストの活躍を見せて、後半22分に宮崎と交代を告げられた。

インターハイ得点王が狙うはゴール

インターハイ得点王として一番臨むのはゴール。榎本(22番)は初めての決勝で最高の結果を残せるか 【写真は共同】

「アシストを多くできたことは良かったと思います。これでもっともっと乗っていきたいと思いますし、決勝ではゴールを狙っていきたいです」

 一番望むゴールこそ奪えなかったが、着実にゴールに絡むプレーはできるようになっており、手応えはつかんでいる。あとはこの手応えをより自分のプレーに反映させて、決勝の大舞台でゴールという結果を残すのみだ。

「流通経済大柏(千葉)はしたたかに戦ってくるので、そこで圧倒されないように、ボールを支配して自分たちのペースで戦いたい。相手はマンツーマンでやってくるので、僕がしっかりと動けばスペースができてくると思う。同じ2年生の関川郁万には負けたくないし、勝つことで自分も成長できると思う。どんどんチャレンジしていきたい」

 大会の主役は3年生だけじゃない。インターハイ得点王がこのままでは終わらない。そう強烈な意思を持って、榎本樹は初めてのファイナルの大舞台に立つ。
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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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