コーチを置かず試行錯誤でアジア新 変化を楽しむパラ水泳・木村敬一
初めて目標が達成できなかったリオ
リオ大会で2つの銀、2つの銅メダルを獲得した木村の現在に迫った 【スポーツナビ】
しかし、木村はリオ大会について「初めて自分の目標が達成できなかった大会だった」と振り返る。
木村は1990年に滋賀県で生まれた。2歳の時に病気で失明し、光を感じることもない。水泳を始めたのは小学4年。中学は、東京にある筑波大学付属視覚特別支援学校に進学した。パラリンピックで5個の金メダルを獲得している河合純一など、複数のメダリストを輩出した学校で力をつけ、高校3年で北京大会に初出場した。
「北京の時には出場することが目標、ロンドンではメダル獲得が目標」
3度目のリオでは金メダルを、と臨んだ大会だったのだ。
「とはいえ、ロンドンから4年間で取り組んできた練習の内容やプロセスはすごく充実していましたから、その後悔はありません」
一新した環境で新たなチャレンジ
9月に開催予定だった世界選手権の前、富田宇宙(左)と池愛里(右)と練習する木村。選手やコーチなどさまざまな人とのコミュケーションが木村の進化のヒントになっている 【写真は共同】
「リオからの1年、とにかくさまざまなことを試したい、新しいことにチャレンジしてその結果、自分がどう変わっていくのかをしっかり見極めたいと思っていました」
木村は、今年4月から練習環境を一新した。リオまでは母校・日本大の野口智博教授にトータルで指導を受けていたが、現在はパラ水泳の強化指定選手らが集まるプールで、専任コーチをつけずに練習する。一方、筋力トレーニングではパーソナルトレーナーによる指導を受けている。
「これまで経験してきた練習をベースに、今ある自分の体と照合させて、強度や追い込み時期などを自分で判断して決定していくんです」
これまではずっとコーチ任せだった。自分で構築していくことに、チャレンジの意味がある。
「今日やったこと、今週取り組んだことで、来週どんな変化があるか。レースでの感覚やタイムにどうつながっていくか。日々、自分の体に集中しないといけないんですが、それが楽しい」
例えば、プールでの練習ではパドルやフィンなどの用具を使う回数を半分に減らした。
「ウエートトレーニングでしっかり筋力がついてきているから、水の中で用具を使って負荷をかけるより直接的な水の感覚を意識する方がいいのかな、と」
実際、筋力強化は順調に進んでいる実感がある。特に腹筋などの体幹、キックの要となる下半身がパワーアップしてきた。それが、日本選手権での記録更新に結びついている。
木村は、アジア新をマークしたバタフライの後半、ターン直後の水中でのドルフィンキックを、それまでの4回から6回に増やしたと言う。
「スタート台でふと思いついてやってみました。というのも、普段、耐乳酸トレーニングとしてバタフライの練習をしている時には、いつもターンの後6回のキックを入れているので、同じ状態で泳いでみることにチャレンジしたんです」
本来は、トレーニングでの回数とレース本番での回数は同じ方がいい。レースを想定して泳ぐことで、より本番に近いタイムを自覚できるからだ。しかし、この日、思いつきとはいえキックの回数を増やしたことで記録が伸びた。
「6回の感触はすごく良かったですね」
それだけ下半身強化、キックの推進力が上がっているということの証左でもある。今後は、練習と本番のキック回数を合わせてさらに検証を進めたいと語る。