なでしこは楽譜を持たないオーケストラだ 個の強さは必要だが、「組織」の整理を
北朝鮮に敗れ、2位で大会を終える
なでしこジャパンは優勝を懸けて臨んだ北朝鮮との試合に0−2で敗れ、EAFF E−1サッカー選手権を2位で終えた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
「強い気持ちで臨んだんですけれど、結果がすべてなので……。代表として自分たちの足りないものを本当に、もっと考えなきゃいけない。遅いといえば遅いんですけれど、そういった意味で1人1人が成長するために、すごく意味のある試合だったなと思います。(中略)やっぱり個人がどれだけ足りていないかということの表れだったんじゃないかなと思います」
他の選手たちからも、「代表選手としての自覚がもっと必要」「みんなで前を向いてやっていくしかない」などの声が聞かれた。優勝を逃したショックが大きかったことは想像できるが、選手たちがこんなにも自己責任を感じ、精神的に追い込まれているとは、思いもよらなかった。
高倉監督の描く理想と、遠い現実
現実は、指揮官の描くイメージにはなかなか届かない 【Getty Images】
「それ(1対1の勝負)を避けるためにグループでのプレーを選ぶ傾向にあると思うんですけれども、私自身は組織に逃げるチーム作りはしたくない。(中略)チームプレーにフォーカスすると、そこを忘れているところも(過去には)あったと思います」
高倉監督にとっての理想のなでしこジャパンは、フィジカルを言い訳にしない、組織に依存しない、自ら判断して、正確で賢いアクションをする……そんな選手たちの集まりだ。だが現実は、指揮官の描くイメージにはなかなか届かない。
各選手のプレーや動きを見ていれば「この選手はこういう長所を評価されて代表に選ばれたんだな」ということは分かる。だが試合の中で、それらの長所はバラバラに散りばめられ、時に打ち消し合う。それらを融合させる戦術が練られていないように見えるのだ。
もちろん、戦術的な拠りどころがまったくないわけではない。サッカーの原理原則は、全員が常に頭に入れておくべき最優先のセオリーだ。選手たちは対戦相手の分析ミーティングや試合中の修正を話し合う際、その原則を基にしてすり合わせを行っているという。
問題はそこから先。いかに集団で相手をかわし、いかにシュートに持ち込むか、というテンプレートがないため、選手たちは試合ごと、シーンごとに考えながら(迷いながら)プレーしている。そのため、いいテンポがなかなか続かず、ミスからボールを奪われる場面も多い。
たとえば「ボールが来た」→「いると思った場所に誰もいない」→「とっさに次の手を考える」→「考えている間に手詰まりになる」→「苦し紛れにパスを出す」といった中盤でのシーン。このミスの修正は、戦術を練り上げながら行うのが自然だ。だがもし選手たちが「1対1に弱いからだ」と思い込んでしまっては、出来事を正しく振り返ることも難しくなる。