なでしこは楽譜を持たないオーケストラだ 個の強さは必要だが、「組織」の整理を

江橋よしのり

確実性を積み上げておかなければ

今のなでしこジャパンは楽譜を持たないオーケストラだ 【Getty Images】

 高倉監督は10月22日に行われたスイスとの親善試合で、目指す攻撃のスタイルについて「ポジションにとらわれず自由な絵を描けるように」「勇気を持って、小回りの効いたプレー、相手の心を感じたパスを通してゴールに向かっていく」「見る人が本当に思い切りガッツポーズをするようなゴールに期待している」と情緒を交えて表現していた。やはりガチガチに戦術で縛られてパターン化された攻撃ではなく、アドリブ要素の強い、相手に対応策を与えない高度な戦い方を目指していると思われる。

 たとえるならば、なでしこジャパンは楽譜を持たないオーケストラだ。即興がかみ合って美しいハーモニーを奏でれば、それは奇跡のような音楽となるだろう。世界大会のメダルが懸かった試合で成功すれば伝説のチームになれるが、大事な試合、格上との試合で望みどおりに奇跡が起こせるものでもない。確実性を積み上げておかなければ。

 来年4月にはヨルダンで女子ワールドカップ(W杯)予選を兼ねた女子アジアカップが行われる。予選参加国8に対し、世界への切符は5枚。8チームはA・B2つのグループに振り分けられ、両グループ2位以内のチームと、3位同士によるプレーオフの勝者にW杯出場権が与えられる。

 B組の日本はベトナム、韓国、オーストラリアとの争いで2位以内を目指す。万一、3位となっても、プレーオフの相手はタイ、ヨルダン、フィリピンのいずれかになると予想されるため(A組は中国の1位抜けでほぼ間違いない)、日本が取りこぼすとは、いくらなんでも考えられない(ちなみに北朝鮮はアジアカップの1次予選で敗れたため、すでにW杯本大会への道が絶たれている)。

19年W杯本大会、東京五輪に向けて

2019年のW杯本大会に向けて、チームに戦術を植え付けるにはまだ間に合う 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 アジア予選のハードルが低いことは、なでしこジャパンにとって幸いだ。2019年のW杯本大会に向けて、チームに戦術を植え付けるにはまだ間に合う。さらに20年の東京五輪にも、予選免除で出場できる。攻撃なら組織で組み立てて、組織で崩して、最終局面で個人の力とアイデアで点を取る。守備なら組織で追い込んで、最終的に個人で奪う。

 つまり、決め切る場面と奪い切る場面は個の強さが必要だけれど、その局面に至るまでの過程を組織的に整理した方が、弱点を補いつつ長所を発揮しやすい。何より世界の強豪国に「個の力で戦う」方針で挑むのは、まだ今のチームではリスクが大きい。

 なでしこジャパンの監督には、1対1にひるまない、フィジカルを言い訳にしない個人に目をかけると同時に、個人を生かす組織のマネジメントが求められる。高倉監督がこれまで個人の課題を明確にするために、あえて組織論を持ち出すことを控えていたのなら、そろそろ封印を解いていい。

 また、高倉監督が1人で頭を抱えてしまうようなら、日本サッカー協会も問題解決に向けたサポート体制を構築するなり、あるいは監督を交代させるなり、早めに手を打つべきだろう。

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著者プロフィール

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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