【ボクシング】ロマチェンコ、異次元の強さ見せつけ圧勝 歴史的評価を上げるべく3階級制覇へ

杉浦大介

大方の予想を裏切りロマチェンコの一方的な流れに

五輪連覇同士の対戦はロマチェンコがリゴンドーに6回終了TKO勝ちを収めた 【Photo by Steven Ryan/Getty Images】

“達人たちの戦い”“神々の激突”――。一部から少々大げさな呼称で表されたスーパーファイトも、結局は我が世の春を謳歌するワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)の独壇場になった。

 現地時間12月9日(日本時間10日)、米国ニューヨークのマディソン・スクウェア・ガーデン(MSG)・シアターで行われたプロボクシングのWBO世界スーパーフェザー級タイトル戦で、王者ロマチェンコはWBA世界スーパーバンタム級王者で、挑戦者のギジェルモ・リゴンドー(キューバ)に6回終了TKO勝ち。スピード、クイックネスを生かし、29歳の王者は2回には早くも主導権をつかんだ。37歳の挑戦者はハイペースについていけず、極端なダッキング、クリンチでの時間稼ぎを繰り返すだけだった。

「2ラウンドが終わった頃には何をやらなければいけないか分かった。4回くらいにはもう判定まではいかないと分かった」

 ロマチェンコは試合後にそう振り返った通り、接戦になるとの大方の予想とは裏腹に、特に3ラウンド以降は王者が自信満々にファイトを進めていった。

 ジャブで刺し負けたリゴンドーは右フック、左ストレートのカウンターを狙うが、勘の良いロマチェンコにはまったく当たらない。一方的な流れに、“リゴンドーは試合を投げてしまうんじゃないか”といったささやき声がリングサイドから漏れ始めたのは5回頃のこと。続く6回にホールドで減点を奪われ、キューバの英雄の集中力は途切れてしまったのだろう。

 案の定、6ラウンド終了と同時に、左手のケガを理由にリゴンドーはギブアップ。どよめきと罵声の中で試合終了が告げられ、ボクシングマニアを歓喜させた一戦はあっけない形で終わった。

ボクシング史上例がない五輪連覇同士の一戦

リゴンドー(右)はロマチェンコのハイペースについていけず、クリンチを繰り返した 【Photo by Steven Ryan/Getty Images】

 試合が正式決定以降、今戦への周囲の期待度はかなりすごいものがあった。2カ月前に売り出されたチケットは3日で売り切れ。キャパ約5000人のMSGシアターに入りきれないファンが悲鳴をあげ、関係者は“もっと大きな会場を用意すれば良かったのに”とため息をついた。そして、喧騒はファイトウィーク開始後も続き、公開練習、最終会見といったイベント時、2人のボクサーはファン、メディアから追いかけ回されることにもなった。

 ウクライナ、キューバという外国人同士の軽量級ファイトが、ニューヨークでなぜこれほどの人気興行になったのか。すべては主役の王者たちの実績と力量へのリスペクトに他ならない。ロマチェンコは2008、12年の五輪王者で、アマ通算396勝1敗。一方のリゴンドーは同463勝12敗で、こちらも00、04年の五輪王者と、両者ともにアマチュアでの実績は群を抜いている。五輪で2度の金メダルを獲得した選手同士の対戦はボクシング史上でも例がなく、文字通り歴史的な一戦だった。

 そして、そんなファイトでも、結局は目立ったのはロマチェンコの強さだけだった。リゴンドーは左手のケガを敗因として強調し、試合後は病院に直行。しかし、完全にスピード負けし、ほとんどパンチが当たらなかった試合の後では、体の良いエクスキューズと疑われても仕方あるまい。

「リゴンドーはいつ拳を痛めたんだ? 控え室かい?」

 終了後のリングサイドでのボブ・アラム・プロモーターの言葉は、単なる冗談には聞こえなかった。キューバ人王者が2階級を上げての挑戦だったという点を差し引いても、現時点での格の違いを見せつけるようなロマチェンコの充実ぶりと異次元の強さばかりが目立った。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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