Jのオールスターと精鋭部隊の戦い 勝利だけではない、北朝鮮戦の「収穫」

宇都宮徹壱

ラッキーな勝利だけではない日本の「収穫」とは?

この日が代表初キャップとなった伊東。意欲的にドリブルを仕掛けるなど、存在感を示した 【写真:アフロスポーツ】

 かくして日本は、2大会ぶりの優勝に向けて貴重な勝ち点3を手にした。第1試合では、韓国と中国が2−2で引き分けたため、この時点で日本は首位。とはいえ、単純に「勝てて良かった」という試合内容であったこともまた事実である。シュート数は日本の7に対して北朝鮮は12。決定機の数では、相手が3倍くらいあった。中村の初キャップとは思えない冷静な対応に加え、北朝鮮の決定力のなさに救われての勝利であったことは、衆目の一致するところであろう。

 もっとも日本が苦戦した最大の要因は、実力差よりも「チームの完成度の差」と見るべきである。大会初日を見る限り、北朝鮮は4チームの中で最も完成度が高いように感じられたからだ。その理由について、アンデルセン監督に尋ねてみたところ「われわれは非常に厳しいトレーニングを積んでいる」。具体的には「平日はフィジカルや走り込み、戦術も徹底的にトレーニングしている。そして週末は、自分たちのクラブに戻ってプレーをする」のだそうだ。もう少し突っ込んで聞いてみたい話である。が、どうも北朝鮮では平日は協会主導で選手の強化が図られ、週末にクラブにリリースされるというシステムが採用されているのは確かなようだ。

 さながら「精鋭部隊」とでも呼ぶべき北朝鮮に対し、今大会の日本はJリーグの「オールスター」のようなチームであった。ハリルホジッチ監督をして「初めて集まって一緒にプレーするチームなので、あまり厳しい目で見るべきではない」と言わしめるのも、無理もない話である。それでも勝利できたのは、運に恵まれたことも間違いない。それを認めた上で、ファインセーブを連発した中村や右サイドから意欲的にドリブルを仕掛けた伊東など、初キャップの選手たちが輝きを放っていたことは「収穫」であった。

 最後にもうひとつ、この試合での「収穫」について触れておきたい。それは日本対北朝鮮という、スポーツ以外の要素の影響を受けやすいカードが、サッカーのルールによってきちんと完結したということだ。「激しい試合ではあったが、スポーツに反するものはなかった。その意味で、両チームともたたえたい」と語ったのは、ハリルホジッチ監督である。指揮官の言葉どおり、両国は選手もサポーターも実にフェアな試合を見せてくれた。

 昨今のミサイル発射実験や木造船の相次ぐ漂着など、非常にきな臭い空気が満ち溢れていた両国間の関係。そんな中、一片のヘイトもなく正々堂々とサッカーの試合が行われ、最後は両者が握手で試合を終えることができたことには正直ホッとしている。少し前なら当たり前の話であったが、残念ながら今は状況がより逼迫(ひっぱく)している。逆にそんな時代だからこそ、スポーツがあることの大切さをあらためてかみ締めることとなった、E−1の初戦であった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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