京都が育んだ女子プロテニスプレーヤー加藤未唯、五輪へ世界へ「限界までやる」

内田暁
 2020年東京五輪そして世界に向けて、それぞれの地元から羽ばたくアスリートたちを紹介する連載企画「未来に輝け! ニッポンのアスリートたち」。第3回は京都府出身、女子プロテニスプレーヤーの加藤未唯(佐川印刷)を紹介する。

地元で知られたポニーテールのテニス少女

海外ツアーで戦う女子プロテニスプレーヤーの加藤未唯。彼女が生まれ育ったのは、伝統と革新・創造の街「京都」だ 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 彼女は必ずしも、ジュニア時代から常にトップを疾走していた、エリート選手という訳ではない。それでも加藤未唯の存在は、関西地方……特に地元の京都では、テニスファンの間で早くから知られていた。
 長い髪を一つにまとめたポニーテールと、フリルのついたフェミニンなウエアがトレードマーク。その小柄で愛らしい少女が、ひとたび試合が始まるや髪を振り乱し、フリルをはためかせ駆け回ると、腕が吹っ飛びそうな勢いでラケットを振り上げ、飛び上がりボールをたたいた。派手な動きといでたちは、とかく見る者の目を引く。

「初めて彼女のテニスを見た時は衝撃を受けましたよ。小柄な日本人のジュニアが、あんなにダイナミックなプレーをするなんて」
 高校時代の彼女を見たテニス関係者は、当時をそう回想した。

「それで驚く方が、こっちにしてみれば不思議な話や」
 加藤が9歳から18歳まで通ったスクール“パブリックテニス宝ヶ池”の石井知信コーチは、そんな周囲の評価に、むしろすっとんきょうな声を上げる。

「日本のコーチは、なんでも型にハメようとしすぎる。どんな打ち方でも、最終的にはラケットがどうボールに当たるかで飛び方は決まるんやから」

 そのような、本人いわく「当然」の、だが相対的に見ればユニークな指導理念を持つコーチは、初めてスクールを訪れた9歳の女の子を見た瞬間、「この子はやる子や。つぶしたらアカン」と直感したという。あいさつをする母親の横で、無関心を装いながらも自分をアピールするようにラケットを振る姿は、型にはまらず、なおかつサマになっている。
「この子は、放っといても行くところまで行く。自分の役目は、環境を与えてやることや」
 そう思った石井は、練習中に細かく指示を出すことなく、終わった後に気が付いたことを助言していった。

輝いた2017年

スクールのコーチや一般会員の方たちは加藤の顔を見つけると、「ここの机でよく勉強していたのよ」「レベルの上手い下手に関わらず、誰とでもコミュニケーションを取る子でした」と振り返る。子どもの頃の姿を、多くの人が覚えている 【スポーツナビ】

 石井による自主性を伸ばす指導のもと、「思うがまま」のテニスを築いた加藤は伸びやかに成長し、戦果をも挙げていく。17歳の時には全日本ジュニア選手権を制し、同世代の日本の頂点にも立った。
 だが彼女は、ジュニア最後の年に手にした“日本一”のタイトルよりも、14〜15歳の頃に年長者を破り達したベスト4などの方が、うれしかったと述懐する。相手が強いほど燃える反骨精神は、一般的な京都人のイメージとは矛盾するかもしれないが、実はこの町の気質と重なるものだ。やや余談になるが、加藤の実家は160年以上続く造園業。家を出入りする職人や、「あそこのお寺さんは……」などと電話で話す父を見て育った彼女には、古都に脈動する“伝統とは革新・創造の連続である”の精神が、自然と植え付けられたのかもしれない。

 同期選手の多くが、通信制の高校を選び実質的にはプロに近い生活を送るなか、地元の高校に通い大学進学も視野に入れていた加藤は、19歳の誕生日目前にプロ転向する。本人いわく「完全に出遅れた」状況ながら、まずはダブルスで成績を伸ばし、昨年はグランドスラムに出場。今季はシングルスでも、9月に東京で開催されたジャパン女子オープンで、予選から勝ち上がり準優勝の大躍進を見せた。またダブルスでは、ジュニア時代からのパートナーである穂積絵莉(橋本総業)と組み、全豪オープンでベスト4に進出。日本人ペアのグランドスラムベスト4は15年ぶりということもあり、一躍、東京五輪のメダル候補として注目を集めた。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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