酒井宏樹が得た連動した守備への手応え ライバル・高徳も認める「別格」の存在感

元川悦子

欧州2連戦で課された重要命題

欧州2連戦で一流のアタッカーとマッチアップした酒井宏樹(右) 【Getty Images】

 ワールドカップ(W杯)ロシア大会のアジア最終予選10試合中9試合に右サイドバック(SB)で先発出場し、日本代表の最終ラインの一角に、完全に定着した酒井宏樹。彼にとって今回の11月欧州2連戦(10日ブラジル戦、現地時間14日ベルギー戦)は自身とチームの成長度を測る重要なチャンスだった。ブラジルの左サイドにはネイマール、ベルギーの2シャドー左にはエデン・アザールがいる。こうした世界超一流アタッカーと対峙(たいじ)して相手を止められるのか。それが彼に課された重要命題だった。

 ネイマールのいるパリ・サンジェルマンとは現地時間10月22日のフランス・リーグアン第10節で直接対決したばかり。この試合でマルセイユは背番号10を背負う怪物FWに1ゴールを食らっている。酒井宏樹は「パリでやっている時とブラジル代表のネイマールは全く違う人。連係面を含めるとブラジル代表のネイマールはさらにすごい選手なので、僕個人で止めるのはほぼ不可能。チームとしての守備が大事になってくる」とより一層の警戒心を募らせ、組織で守ることの重要性を強調した。

 とはいえ、同じフランスのメスでプレーする川島永嗣が「W杯になれば、2014年のコロンビア戦もそうですけれど、個で負けたらどうにもならない。1対1で負けないことが大前提」と話したように、やはりサッカーの本質はデュエル(1対1)の勝負。酒井宏樹のエース封じが試合の行方を左右するポイントなのは間違いなかった。彼は相手の癖を研究し、入念に対策を練って、リールのスタッド・ピエール・モーロワのピッチに立った。

ネイマールとの激しいデッドヒート

「ファウルしてでも止める」という気概で、ネイマールと白熱したバトルを見せた 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 開始早々の4分、マルセロの浮き球のパスを左サイドで受けたネイマールは細かいドリブルで中央にカットイン。酒井宏樹は対面する相手に必死に食らいついた。激しい守備を嫌がったのか、セレソンのエースはジュリアーノへのスルーパスを選択。シュートは外れ、日本は最初の危機をやり過ごした。このプレーで少なからず自信を得たのか、日本の背番号19はその後も積極果敢に1対1に挑んでいく。前半だけで数多くのマッチアップの場面を迎えたが、決定的シュートは打たせない。縦関係に位置する右FW久保裕也のプレスバックも効果を発揮し、前半はネイマールに仕事らしい仕事をさせなかった。両者の白熱したバトルは後半も続き、2人にイエローカードが出されるほどの激しいデッドヒートが繰り広げられた。

 それも酒井宏樹にとっては当然のこと。「ファウルしてでも止めるというのは戦術なんですよ。僕も日本でプレーしていた時はファウルで止めるのは正義じゃないと思っていたけれど、能力の高い選手をそうやって止めるのが世界トップレベル。僕らはそこに達していないのに、ずる賢さや戦術も足さなかったら、やっぱり戦えない」とサラリと言い切った。12年10月にポーランド・ブロツワフでブラジルと対戦した際も彼はピッチに立っているが、当時はそこまでの物言いはできなかった。ドイツ、フランスで足掛け6シーズンを戦った蓄積が彼を変貌させたのだろう。

 彼自身の「ネイマール封じ」という点では合格点を与えられる出来だったブラジル戦だが、試合自体は1−3の完敗。選手たちはスコア以上に力の差を痛感した。「局面局面を守れたとしても3失点っていうのは僕自身すごくショックだった。『自分が守ったからよかった』なんてことは絶対にありえない。そこはすごく悔しいですし、ゼロに抑えるのを目標に毎試合やっている。そこはブレずにやっていきたい」と本人は気を引き締めた。

ブラジル戦後に行った長時間のディスカッション

連動したプレスができない危機的状況に直面し、監督と長時間のディスカッションを行った 【写真は共同】

 実際、ブラジル戦のチームとしての守備が機能していたとは言い難い。多くの選手から「前からいくのか引いて守るのかの判断があいまいになった」という反省の弁が聞こえてきた。この問題はブラジル戦の地リールから次戦の地ブルージュに移動してから一層、クローズアップされることになった。

 ベルギー戦を2日後に控えた12日の練習で、日本代表は相手の3−4−3を想定した守備戦術を確認したが、連動したプレスがまるでできないという危機的状況に直面した。長谷部誠に代わってアンカーに入った山口蛍が「次、どうなるか分からない」と不安を吐露する一方、吉田麻也も「ベルギーみたいな強い相手に対してこんなうやむやな状態で戦ったら絶対に勝てない。監督と話さないといけない」と発言。この晩から試合前日にかけてのミーティングで長時間のディスカッションが行われたという。

「(ヴァイッド・ハリルホジッチ)監督と僕らが意見を出し合った。監督もかなり聞いてくれました。もちろん監督にも妥協できない部分はあったけれど、僕らもよく話し合った。みんながまとまってプレッシャーにいければ強みになる」と酒井宏樹もチームとして一体感のある守備をすることを第一に心掛けた。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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