GM会議で本格化するストーブリーグ 大谷らMLB挑戦組の動向も左右

丹羽政善

ポスティング制度を使用しての大リーグ挑戦を表明した大谷 【写真は共同】

 当時、アスレチックスのオーナーだったルイス・ウォルフ氏は、眉毛が長かった。その特徴だけを気にしながら、ホテルに入ってくるすべての人をチェックしていると、おそらくそうだろうという人が姿を見せた。

 他の記者には気付かれないようそっと後を追う。声を掛けると、「遅れているんだ。後でいいかな」と言いながら、ホテル内のレストランへ足早に消えた。そこでは大リーグ各球団のオーナー、GMらによる食事会が、もう2時間も前に始まっていた。

「今の間違いないな」

 振り返ると、もう一人気づいた記者がいた。今度は、レストランの出入り口が見える位置で、別々に待った。

 その1カ月半ほど前のこと。ウォルフ氏は、エンゼルスとの契約が切れる松井秀喜について、興味があるという話を地元紙にしていた。まだシーズン中。明らかなフライングだったが、いずれにしてもその真意を確認したかった。警戒して何も話さないかもしれない。しかし、表情や話し方で、何か分かる可能性もある。およそ1時間後、レストランから出てきたウォルフ氏に声をかけると、今度は足を止めた。

「おお、そうだった」

 ただその時、隣にビリー・ビーンGM(当時)がいたのは計算外。「なんだ、また君たちか」。それまで散々、やり取りをしてきた。松井に関してはノーコメントを貫いた。少しお酒が入り、笑いながらではあったものの、状況を理解したはずだ。ウォルフ氏を静かなエレベーターホールへ誘おうとすると、彼はオーナーにそっと耳打ちした。

「しゃべっちゃだめですよ」

 おそらく、そんなところだろう。ただその時、ウォルフ氏はなんのことか分かっていなかったかもしれない。松井のことですが、と話を振ると、とっさにビーンGMの方を振り返った。するとビーンGMは手を振りながら、「しゃべっちゃだめです」というサインを送っていた。

「悪いな、話せないようだ……」

 2010年11月、オーランドで行われたGM会議での一コマである。

気になる新ポスティング制度の行方

 13日(現地時間)から、その7年前と同じ、フロリダ州オーランドのディズニー・ワールドに近いウォルドルフ・アストリアでGM会議が行われる。

 今年は、北海道日本ハム・大谷翔平の移籍、新ポスティング制度の行方に加え、イチロー、ダルビッシュ有、上原浩治、岩隈久志がフリーエージェント(FA)となり、例年以上に話題が多い。メッツからリリースされた青木宣親は、日本復帰も視野にあるとも伝えられる。また、埼玉西武の牧田和久、千葉ロッテの涌井秀章、オリックスの平野佳寿もメジャー挑戦を公言しており、彼らをめぐる動きも慌ただしい。

 ただ、彼らの行方そのものが見えてくるのはもう少し先のことか。それよりも今は、正式発表間近と見られている新ポスティング制度の行方が気になる。

 8日、AP通信が、旧制度の活用を1年延長することで、大リーグ機構と日本プロ野球機構が大筋で合意したと報じた。選手会の承認待ちだが、異論が出なければ、上限を2000万ドル(約23億円)として、複数の入札があった場合、入札額の一番高いチームが交渉権を得ることになる。

 田中将大がヤンキースへ移籍したときのように複数のチームが上限で入札すれば、その全チームが交渉権を得ることになり、大谷がポスティングされれば、当然、そういう状況になるだろう。GM会議中に正式発表が行われれば、大きな話題となることは間違いない。

 もっともまだ、予断を許さない。選手会はどちらかといえば延長案に消極的のよう。 

 13年11月、この年のGM会議でも田中の移籍を見据え、ポスティングの新制度が話し合われ、一度は今回のように合意か、という報道も出たが、ブリュワーズなど、小さなマーケットのチームが異を唱え、仕切り直しとなった。結局、2000万ドルという入札額に上限を設ける案がまとまったのは、12月半ばだった。

 選手会としては、日本の球団に入る額を極力抑えたい。2000万ドルが高いと映れば、見直しを求めてくるかもしれない。そうなれば、大谷だけではなく、西武がポスティングでの大リーグ移籍を容認した牧田にも影響が出る。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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